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結局家に連れ戻してしまった。


今度は寮から取ってきた自分にピッタリと合うサイズのパジャマを身につけて、風呂上がりに牛乳を一杯飲んで、機嫌良く俺のベッドに腰かけている。


顔を洗ったついでに俺はバスルームに干されている白いマフラーに触れ、まだ存分に湿り気を帯びているの確かめて…肩で息をついた。


これが今、
俺が吹雪をつなぎとめる口実―――。

だが、もしも吹雪がこのまま俺に心を許してくれるなら…


――アツヤ……だったな。

吹雪を……俺に任せてはくれないか?


マフラーが乾いても、
吹雪の拠り所を………
俺に預けてくれないだろうか。




「長〜い一日だったね…」


俺が布団に招き入れると、素直に腕の中に飛び込んでくる。

しかも甘えるように俺の胸に頬を寄せて……

「////吹雪」

「なぁに?」

「………いや…」


俺の話が聞きたいと言ってなかったか?

病室でのやりとりを思い出して俺が訊ねると、頬擦りなのか首を横に振っているのか…とにかく「もういいよ」と俺の胸に擦り寄りながら言った。


僕、実は君のこと知ってる。
豪炎寺先生から聞いたこともあるし、

サッカーの辞めた理由も―――

少年サッカーの世界では噂になってるし、知ってる人も多いからね。


吹雪はそう言いながら俺を見上げた。

「君も………淋しいんでしょ?」


誰を責める訳にもいかず、矛先を自分がサッカーをしていることに向け、それを贖罪のつもりで絶った。
確かに、誰も救われることのない淋しい選択をし、以来心が晴れることはない。


だが、俺にも吹雪についてどうも引っ掛かっていた。


「なあ、吹雪―――」

「なぁに…」

「俺はお前を゙人格障害゙と呼ぶのが…どうしてもしっくりこない」

「…………え…」


お前がどんな症状だったのか、マフラーを手放せなかったのも何故だか知らない。

ただ゙アツヤ゙を思う気持ちが絡むことは間違いないんだろう?

―――それを゙障害゙とは呼ぶのはおかしいと思うんだ。


ひょっとして、お前のそのマフラーは…アツヤへの未練じゃなく、お前の大事な気持ちを『病気』だと決めつけてかかる大人に向けて張った……バリアじゃないのか?


と、最後まで言い終わる前に俺は口をつぐんだ。


俺の腕のなかの吹雪の体が震えていたから。


「………どうした?」

「………クスン………ヒック、ヒック…」

嗚咽が聞こえて俺は慌てる。


「す…すまない…」

「違うんだ///嬉しくて…」

「え……」

「君だけだよ。僕の中の゙アツヤ゙を悪者にしなかったのは………」



嬉しい………と言って吹雪の柔らかそうな唇が近づいてくる。


「っ……………」


俺は顔を逸らして吹雪を抱きしめた。


「なん……で?」

「何で///ってお前……」


俺たちは今日会ったばかりなんだし―――と言いかけると吹雪がクスクス笑い出す。


「……何笑ってるんだ」

「だって…君だってヘンでしょ。初めて会った僕を自分のベッドに……」

「クスッ……それもそうだな」


俺は吹雪を真正面に抱き直して、白くて細い顎を指で上げた。


「じゃあ……キス…するか」


吹雪は、答えの代わりに微笑を浮かべた唇を結んで目を閉じた。




俺はごくんと唾を飲み込み…

吹雪の柔らかい唇の感触を唇で確かめる



―――――――――好きだ。



甘酸っぱく心身が疼いた。



触れるだけじゃ…足りないくらいに……吹雪の唇は…


「……ん……っ……チュ……っはぁ…」

「……チュ……っ……美味いな…」

「…え……?」



唇を離して…吹雪の耳許で囁いた。

「好きだ、吹雪」

「////////」

「だから……」

「……ん…っ…」

「チュ……この唇は…一生…俺だけに……」

「……ふふ……チュ…ッ…」



今度は、吹雪が唇を離した。

「君も…そうしてくれるの……?」

「ん?」

「君のキスの相手は……」

吹雪は俺にぎゅっと抱きついた。

「一生…僕だけに……」



ああ、約束する。 と俺は吹雪を抱きしめた。



あたかもこうなる運命だったかのように、俺は吹雪を手に入れたのだった。

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