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深呼吸をする。
そしてゴールめがけて
思い切りボールを蹴りこんだ。
そして、見事に………
ゴールポストに命中したそれは思い切り弾かれて堤防の道まで飛んでいく。
その方向には―――
(人だ、危ない!)
そう思った瞬間だった。
夕暮れの曇天の下でその人影は、ふわりと跳躍し独特のフォームで僕の胸の真正面にロングパスを打ち返し―――それは
゙イリュージョニスドとはこういうプレイをする人のことか、と僕が心打たれた瞬間だった。
「…あ………待っ…て!!」
何事もなかったかのようにまた歩き始めるその人の背中を、僕は夢中で追いかける。
「あのっ、すみません、待って。僕は
雷門中の吹雪士郎…です」
「………………」
迷惑そうに振り返ったその人の顔は―――うわっ、超イケメン!
………っ…じゃなくて…整っていて…厳格だけど、優しい…
…なんだろう?
何処かで見たことある面影だった。
「お前…」
「はいっ///」
「足、速いな」
「へっ?」
大真面目にその人は言い、ポカンとしてる僕を見て、口の端を少し吊り上げて微笑した。
でもどことなく哀しそう……と直感的に思う。
「あの……サッカーの練習に付き合って貰えませんか」
゙サッカー゙という言葉に、ハッ…と彼は目を見開き、それから逸らした。
「断る」
「あの…待って」
「サッカーは止めたんだ」
「じゃ、名前だけでも…」
「必要ない」
彼が僕のブロックを振り切って歩みを早めた時、
ポツリ、ポツリと
大粒の雨がアスファルトに水玉模様を作り始め―――あっという間に土砂降りに変わっていった。
「…………来い!」
ザアザアと降りしきる雨のなか、呆然と雨に打たれている僕の元に駆け戻ってきた彼は、僕の腕を掴み土手り、サッカーボールをトスして拾い上げて高架下に入った。
「………止むまでここで待とう」
その人は僕を見て切れ長の目を優しく細める。
ドキン―――!としたその瞬間。
―――――ゴロゴロゴロゴロ…
お腹の底に響く雷鳴に僕は飛び上がらんばかりに驚く。
「わぁあああ!」
「?!………どうした」
「皆………居なくなっちゃう…」
「吹雪。………しっかりしろ」
「やだっ……やだよぉ」
「……吹雪?」
「ひとりはやだよぉ!」
「ひとりじゃない!」
僕の名前を…覚えていてくれたんだ。
パニくる頭の中で…それだけが嬉しい。
「ハァ、ハァ……や…だ………」
過呼吸になりかけてる僕の口を彼の手が迅速に塞ぐ。
大きくて温かい手だなぁ…………
そう思った瞬間、涙が一筋頬を伝う
その感覚が何故か鮮明に心に残った。
「吹雪、しっかりしろ……俺は…豪炎寺修也」
「くっ………ハァ……ハァ……」
「……どこにも…いかない……から!」
その言葉を聞いた時僕の胸が
きゅん―――っと痛んだ。
ごうえんじ……
その名前を持つ人を僕は二人知っている。
稲妻町立病院の先生と、
木戸川清州の
悲劇のエースストライカー。
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