初夏、大切で幸せな思い出をくれた。葉は落ちてしまったけどこれだけは枯れることなく輝き続ける。
月子が少し残ると言ったから一足先に帰ることにした。本当はわたしも自主練したかったけど部活中以外で人に見られながらやるのはすごく苦手だ。
弓道場を出ると意外な人物が木に寄り掛かるようにして立っていた。わたしに気付くと軽く手を振って近付いてくる。
「どうしたの? 月子なら残るみたいだから中で待ってたら?」
「ばーか。お前を迎えに来たんだよ」
わたしを迎えにきた?
意味がわからずきょとんとしてしまった。
「彼氏が彼女を迎えに来ちゃ悪いか?」
「わ、悪くない」
錫也の口から出た彼氏彼女という単語に頬が熱を持つ。ちゃんと彼女と思われてたんだ。
「これくらいしないとあんまり会えないだろ?」
「……ごめん」
「謝らなくていいよ。それだけ旭が部活頑張ってるってことなんだから」
いい子いい子とするようにわたしの頭を撫でた。その手が優しくて本物の恋人同士みたいな錯覚に陥る。
でも、寂しくさせないと言った手前罪悪感は拭えない。
どうしたらもっと一緒に居れるんだろう。どう言ったら錫也の負担にならないんだろう。考えても答えが出ない。わたしが錫也にとっての一番じゃない限りなにを言っても我儘になってしまう気がする。
「迎えにきてくれてありがとう」
暗い考えを振り払うように笑顔でお礼を言う。今、錫也といる。それだけで幸せなんだから。
「なあ、少し星を見てかないか?」
「行く!」
部活が忙しくてゆっくり天体観測する暇もなかったから勢いよく頷いた。あまりにもわたしが必死だったからかくすくすと錫也は声を出して笑った。
「笑わなくてもいいじゃん」
「いや、星が好きなんだなって思ってさ」
「じゃなきゃ星月学園には入らないよ。それに錫也と星見るの初めてだからなんか楽しみで」
「……俺もだよ」
二人で屋上庭園まで言って夜空を見上げた。宝箱をひっくり返したかのように一面に星が輝いている。溜め息が出てしまうくらい綺麗な星空に目が奪われる。
「あ」
星が一粒転がった。
「今の見た?」
「うん。旭は何か願い事した?」
「できなかったよ。錫也は?」
「秘密」
唇の前に人差し指をあてて言った。そしてまた空を見上げる。
月子に振り向いてもらえるよう願ったのかな。いや、錫也ならきっと月子の幸せだろう。
左手から体温が伝わってきて手を繋がれたことに気付いた。初めてのことに驚いたけど錫也は空を見たまま。ゆっくりとその手を握り返してわたしも星に視線を戻す。
もう一度流れ星が見れたなら、わたしはこの時間が続くことを願う。