春と共に俺の初恋は終わりを告げた。代わりに夏の匂いが俺の寂しさをまぎらわせた。



 この学園には女子生徒が二人しかいない。一人は俺の幼馴染み。とても大切な女の子。もう一人は学科が違うせいで廊下をすれ違うくらいだった。ただ入学式では長かった髪がいつの間にか短くなっていたのが印象に残っていた。その後、幼馴染みである月子がその子と同じ弓道部に入ったことで接点が出来、少しずつ話すようになった。
 何事にも一生懸命取り組み、無理ばかりする月子。なんでも飄々とこなしていく旭。朝比奈旭という女の子は俺の幼馴染みとは正反対に映った。ただいつも笑顔を絶やさないところだけは似ていると思っていた。
 そんな旭に告白されたのは夏の気配がしてきた頃。フランスから来た羊と月子が付き合ってから少ししてからだ。


「寂しいの?」


 赤く染まる教室で一人残って居た俺に向けられた言葉にぎくりとした。
 俺は幼馴染みとして以上に月子を大切に思っていた。けど、それを言葉にすることは一度もなかった。今の関係を壊したくなくて自分の気持ちを押さえ込んでいたはずなのに、旭はそれに気付いていた。
 羊の隣で幸せそうに笑う月子を見る度に心臓が締め付けられた。あの笑顔は決して俺には向けられない。俺は月子の隣に立つことが出来ない。苦しくて寂しくてあいつらの前で笑うのが辛かった。でも、離れることも出来なくて感情を押し殺すことに必死になっていた。


「わたしは東月くんが好き」


 少しだけ震えた声。それでもやっぱり彼女は笑っているんだ。


「東月くんを寂しくさせたりしない。月子の側に居ても苦しくなくなるまででもいいの。……わたしじゃだめかな」


 最低だとはわかっていた。
 俺が好きなのは月子であって旭じゃない。だけど、俺は差し伸べられた手を取った。この寂しさや苦しさから少しでも逃げられるなら、と。
 こんな風に始まった俺達だったけど、俺は幸せだった。彼女の優しさに救われて、今では月子の前でも普通に笑えるようになった。もっと彼女のことを知りたくなった。一緒に居たいと思った。いつの間にか俺の心を旭が埋め尽くしてたんだ。


「……好きだ」


 吐き出した感情は秋の空に吸い込まれていく。
 別れの言葉を告げた旭はやっぱり笑ってた。曖昧な笑顔。俺はそんな表情しか見せられてない。しかも、幸せになってだなんて最後まで俺に気を遣って……。
 宮地君には気を遣わず自然な笑顔や弱さを見せてたのに嫉妬した。その時、やっと気付いたんだ。月子が羊と付き合って寂しかったのは恋愛感情じゃなく、ただ自分の役割がなくなってしまったからだということに。俺は自分の感情すら理解していなかった。でも、それを伝えたら旭が離れていってしまう気がして結局言うことが出来なかった。
 臆病な自分が招いた結果なのに俺はそれを受け入れられない。
 秋の空が取り残された俺を見下ろす。冷たい風が心の隙間を通り過ぎていった。





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