膨らんだ桜の蕾。花開く瞬間を今か今かと待っている。寒さに耐えたその花はきっと美しく春を告げるんだろう。



 卒業式を終えて思い思いの時間を過ごす中、俺は旭を探した。本当は謝恩会まで別行動することになってるけど、そんなのは知らない。我慢しない、と宣言してから本当に俺は遠慮なしになってると思う。


「泣かないでよーまた遊びにくるから」

「それでも寂しいです」


 西洋占星術科の後輩に囲まれている旭は困ったように泣いている子の頭を撫でた。弓道部の子達ともこんな風にしてたんだろうか。


「旭、ちょっといいか?」

「え? 月子達と先に行ったんじゃなかったの?」

「ごめんね。俺の彼女返して貰うよ」


 旭の後輩達ににっこりと笑って言えば、彼らは何度も首を縦に振った。物分かりのいい子達でよかった。


「待って、錫也。謝恩会まで別行動って言ったじゃん」

「旭は俺より後輩と居たいの?」

「そうじゃなくて……みんなの邪魔したくないの」


 困ったように口を尖らせる。こういう気を遣うところはいつになっても直らない。もっと我儘でいいって言ってるのに。


「邪魔な訳ないだろ。俺はいつだって旭といたいんだけどな」


 そう言いながら旭の顔を覗き込む。案の定真っ赤になっていた。


「で、でも」

「旭は俺と居るの嫌か?」


 嫌じゃないと蚊の鳴くような声が返ってきた。それが可愛くてそのまま抱き締めた。


「錫也はずるい。いやじゃないの知ってるくせに」

「うん。でも、ずるくても俺のこと好きだろ? 俺はもっと好きだけど」

「恥ずかしいこと言わないでよ」


 俺の腕から逃げようとする旭。さらに力を込めてそれを阻止する。


「旭が俺のこと、どう思ってるか教えてくれたら離すよ」

「う……好き、です」

「よくできました」


 頭を撫でてから旭を解放してやる。キスもそれ以上もしてるのにこんなことで耳まで真っ赤にするからつい意地悪したくなる。
 大人しくなった旭の手を引いて校門に向かえば、待たせていた月子達が手を振ってきた。


「待たせてごめんな、羊」

「別にいいけど急にどうしたの?」

「俺もお前達に聞いて欲しいことがあってさ」


 俺の後ろの方で申し訳なさそうにしてる旭を引き寄せる。慌てたような声が聞こえたけどそれを無視して三人に見せつけるように腰を抱く。


「俺は旭を傷付けて一度は手を離してしまったけど、今度はもう絶対に離さない。誰よりも大切だからずっと一緒にいようと思う。それをお前達に誓うよ」


 「なあ、旭」と同意を求めれば、驚いた顔をしながら目を潤ませていた。


「そんなのわたし聞いてないっ」

「今言ったからな。なぁ、これからもずっと俺と居てくれないか?」


 瞳に溜まってた涙が零れ落ちた。きらきらと光るそれはどんな星よりも綺麗に見えた。その星を指で優しく掬うと旭は今まで見たどの笑顔よりも幸せそうに笑って小さく頷いた。


「ちょっと見せつけないでよ」

「先に羊に見せつけられたからな。俺も今は大切な人が居るって言いたくなったんだ」


 羊が月子を幸せにすると俺達に誓ったように俺も旭を大事にすると大切なこいつらに誓いたかった。だから、強引だったけど旭を連れてきた。


「錫也にもそんな風に言える大切な人ができてよかったよ。おめでとう。あとは哉太だけだね」


 素直に祝ってくれた羊は最後におどけたようにそう言った。そのせいで哉太と二人でわーわーと言い合いを始める。それを止めに月子が間に入っていく。


「錫也」


 控え目に制服の裾を引っ張られて旭の方を見る。


「これからもよろしく」

「こちらこそ」


 嬉しいのか恥ずかしいのか顔が更に赤くなる旭の額にそっと唇を落とした。
 もう冬が終わって春がくる。季節と同じように様々な表情を見せながら巡っていこう。終わりのその先に俺達の未来があると信じて。





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