春に芽生えた想いは夏に青い葉をつけた。でも、その仮初めの葉は秋風が散らしていく。寂しさも全部連れ去ってくれればいいのに。



 始まりがあるものには終わりがある。だけど、わたし達は始まっていたのかもあやしい。それなのに終わりはあるのだろうかとか考えるけどわたしの気持ちは始まっていた。不毛だとわかっていながらも。だから、わたしにだけは終わりがある。
 屋上庭園への扉が開かれた。それがスローモーションのように見えたのは少しでも長く今を続けたいっていうわたしの思いのせいだろう。


「ごめん、遅くなった。あいつらにちょっと捕まってて」


 申し訳なさそうに眉を下げる錫也。
 その顔も言い訳ももう何度も見聞きしてきた。その度に心臓がちくりと痛む。


「気にしてないよ」


 いつものやりとり。
 わたしがこう答えれば安堵したように錫也は笑うから。だけど、これももう最後。


「わたしこそ急に呼び出してごめんね」

「俺も旭と会いたかったしいいよ」


 彼氏みたいな台詞。いや、錫也は彼氏なんだけど。そんなこと本当は思ってないんだろうなぁって。本当にそう思ってくれてるならすぐに来てくれるでしょ。なんて思ってしまう自分がきらい。


「メールでも言ったけど話があるの」

「うん、何?」


 錫也は薄い笑みを浮かべたまま首を傾げる。
 好き、だな。この表情も全部好き。彼の一番になれなくてもいいと思った時と気持ちは変わっていない。


「別れよう」


 好きだけどさよならなんて失恋ソングでよく耳にして意味がわからないと思ってたけど、こういうことなのかもしれない。だけど、好きなのはわたしだけ。付き合ってるのにずっと片想い。
 わかってたはずなのに、それでもいいって覚悟してたはずなのに、友達の時よりも一緒に居る時間が増えて錫也の優しさに沢山触れてもっと好きになった。同時に苦しくなった。どんなに頑張っても錫也は月子しか見てないことが。表面上の付き合いでしかないことが。


「どうして? 俺、何かした?」


 戸惑ったような問い掛けに静かに首を振る。
 違うよ。錫也はなんにもしてない。わたしが勝手にだめになっちゃっただけなの。


「振り回してばっかりでごめんね。これで最後だから。今までありがとう」


 わたしはちゃんと笑えてる?
 辛くても苦しくてもわたしは笑う。どうしようもないくらい汚くて卑屈な感情が錫也に伝わらないように。いつも笑顔なあの子を少しでも真似るように。


「幸せになってね」


 嘘じゃないよ。本当に思ってるの。幸せな思い出をくれた錫也には今度こそ幸せになって欲しい。月子は錫也を選ばなかったけど、錫也はすごく魅力的な人だから。次に錫也が誰かを好きになった時にはうまくいって幸せになって欲しい。それがわたしだったらよかったのにとは思っちゃうけど。やっぱりこれも口にはしない。


「さよなら、東月くん」


 笑みを崩さないまま静かに告げて錫也の横を通り過ぎる。彼は引き留めない。当たり前のことが寂しい。
 屋上庭園の扉を閉めると堪えてたものが溢れそうになった。まだだめだ、と自分に言い聞かせて平静を装ってそこから離れる。
 泣いてる姿は見せたくない。優しい錫也が罪悪感を感じてしまうかもしれないから。せめて笑顔でお別れして相手にとっても綺麗な思い出にしたいの。
 どこか寂しい秋の青空がわたしの目に焼き付いて離れない。





人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -