真冬のように寒く感じるのは大切な人が隣に居ないからだろうか。夏に繋いだ手の温度がひどく恋しい。



 放課後、話がしたくて旭を探した。ひとつの季節を近くで過ごしたはずなのに居そうな場所が浮かばない。
 俺達は近くに居たようで本当は遠かったのかもしれない。はっきりと気持ちを言葉にしなかった俺への罰だ。
 気付けば弓道場まで来ていた。今日は部活がないって月子が言ってたっけ。それでも、ここに居るような気がして扉に手を掛ける。


「あ」


 すんなりと開いた扉に心臓が跳ねる。
 少しだけ緊張しながら中に入ると旭はちゃんとそこに居た。だけどその隣には宮地君が居て、彼女の背中に手を回していた。
 心の中が黒く染まっていく。今すぐにでも駆け寄って宮地君を引き剥がしたいのに俺にはそうすることができる資格がない。逃げるようにその場から去ることしかできなかった。


「……どうして」


 旭の細い背中が震えていた。きっと泣いてたんだろう。俺にはそんな姿を見せなかったのに。怪我で優勝を逃してた時だって悔しかったはずなのに笑ってた。宮地君には正直に話して、俺には嘘を吐いた。
 俺達が付き合うまで旭が下の名前で呼んでたのは彼だけだった。


「名前で呼ぶのって特別な感じだからあんまり呼ばないかな。龍之介は例外だけど。月子が七海達を名前で呼んでるのと同じだよ」


 月子とそんな話をしていたのを知っている。だから、“錫也”と彼女が俺を呼んでくれた時は嬉しかった。俺が旭にとっての特別なんだと実感できたから。本当は宮地君を名前で呼ばないでくれって言いたかった。俺の名前だけを呼んで、俺だけを見ていて欲しかった。そして、俺だけに旭の弱いところも全部見せて欲しかった。
 だけど、彼女が全部を許してるのは幼馴染みの宮地君だけ。幼馴染みだから仕方ないと思う反面、嫉妬していた。今だってそうだ。きっと彼に次会ったら殴るんじゃないだろうか。どうして君が旭の隣にいるのか、と。
 本当は自分がふがいないだけだのに誰かのせいにしてしまわないとこの苦しみに耐えられない。
 こんなに苦しいなら無理矢理にでも引き止めればよかった。でも、そうしていても旭は俺の前ではあんな風に泣かないんだろう。あいつの全部が欲しい。そんな凶暴な感情が渦巻く。
 どうしたら俺はあいつを笑わせることが出来る? 泣かせることが出来る?
 好きという感情だけじゃ何一つ手に入れられない。手を伸ばせば届く距離に居るのにあいつの心はいつも遠い。そこに触れることを俺は永遠に許されないんだろうか。





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