あの子が現れたことを信じてるか?
 そんなのわからない。だってユーレイなんて信じてない。でも、宿海を見ててあいつが嘘吐いてるようには思えなかった。
 不自然な動き、誰にも向けられてない言葉。
 それらがわたし達に見えないあの子の存在を証明しているようだった。
 だけど、松雪が話していためんまは信じられなかった。いつだって自分のことより人のことばかり考えるようなあの子が騒がれるのが迷惑だなんて言うはずない。ずっと一緒に居たんだからそれくらいわかる。
 あいつはただ嫉妬してるだけ。めんまのことが好きだから宿海だけが見えるのが羨ましいんだ。あの頃から少しもめんまに対する松雪の気持ちは変わってない。わたしが松雪を見るのと同じ目してたもん。
 地面が土からアスファルトに変わる頃にようやく足を止めた。


「めんまぁ」


 会いたいよ。わたしだって会いたい。それでごめんねってちゃんと顔を見て言いたい。最後に見たのが、追い掛けることの出来なかった背中だなんて嫌だ。


「おい」


 いつの間にかしゃがみこんで泣いていたわたしの腕を誰かが引っ張った。


「…………まつゆき」


 泣いてる上にさっきのことがあったせいで気まずい。なんで無視しないで声掛けてくるのよ、わ


「俺で悪かったな」

「別に」


 誰であってもいやだ。こんな姿見られたくない。


「高校生にもなって道端で号泣とか恥ずかしくないのか?」

「……うるさい」


 足元を見ながら言う。下向いてるせいで余計涙が零れてくる。
 掴まれてる腕は痛いし熱い。
 絶対さっきのこと根に持ってる。めんまのことになると松雪はしつこい。


「帰るから離して」

「おまえってさ、宿海のこと好きなのか?」

「は?」


 俯かせていた顔を勢いよくあげた。あまりの的外れの言葉に涙も引っ込む。


「おまえ、昔っから本間芽衣子のことばっか話してたけどそれ以外は宿海のことだし、今日だってあいつのことは信じるくせに俺のことは信じないで嘘つき呼ばわりだ」


 好奇の目を向けながら横を通り過ぎる人達。
 夏の幻のせいだろうか自嘲気味に笑う松雪が寂しそうに映る。


「昔っから俺にばっか突っ掛かってきたよな」

「あんたはやっぱりめんましか見てなかったんだね。全然違うよ。わたしのこともわかってない」


 さっきとは別の涙が溢れる。こんなに涙腺脆くなかったはずなのにな。


「もしも、あんたが見たって言うめんまが本物なら松雪もめんまのこと忘れたら? ちゃんと過去にしたら?」


どれも自分に向けるべき言葉だ。めんまのことも松雪のことも全部過去にするべきはわたしだ。

「学校ではわたしもなにも知らない顔してあげる。突っ掛かりもしない。それでいい?」


 帰るから離して、ともう一度言って腕を掴んでる手を手を振り払う。
 ゆきあつはめんまを過去にしたいんじゃない。忘れたいんじゃない。自分だけのめんまにしたいだけ。もういないあの子の幻を一人で抱き締めていたいんだ。




ばかなひと
(そんなバカを好きなわたしはもっとバカ)










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