ぱちぱちと炭がはぜる。
 バイエルンと野菜しか乗ってない網の上はなんだか貧相だ。
 なんに対する乾杯なのかわからないけど久川がそう言いながらジュースを掲げたのでみんなして乾杯と盛り上がりのない声で返した。
 隣でにんじんを避けてバイエルンを食べる宿海。誰かに肩を揺すられているかのように揺れているのを見てみぬふりをした。


「それにしてもめんまのお願いね」

「おう。おまえも手伝ってくれるよな」

「信じてるの、それ?」


 鶴見の視線の先には安城が居た。「わたしは」と口ごもった彼女は宿海を少し見てから皿の上に目を落とした。


「信じてもいいって思ってる」

「そう。なら私も」

「やってくれるか! さっすがつるこ〜。あだなももちろん手伝ってくれるよな」

「はいはい」


 いい具合に焼けたかぼちゃを口に運ぶ。……あつい。


「超平和バスターズはやっぱ最高だな!」


 久し振りに聞いた言葉に一瞬固まる。
 違うよ。ダメなんだよ。めんまがいないと、めんまもいないと超平和バスターズじゃない。


「……なくなよ」


 ぼそりと横から聞こえた声。
 焦って横を向けば宿海しかいない。だけど、今の言葉はわたしに向けられたものじゃない。現に宿海はわたしの視線にも気付いていない。
 がさっと物音がして全員一斉に肩を跳ねさせた。


「なんだ。えらい歓迎振りだな」


 わたしが来た時と同じように両手にビニール袋をぶら下げた松雪が首を傾げた。


「野菜と骨付きリブ持ってきたぞ」

「うわ……野菜被った」

「みょうじも野菜持ってきてたのか」


 くすりと笑われた。松雪は鶴見の方に荷物を置きに向かう。


「びっくりしたぜ。てっきりめんまがきたんだと」

「めんまならいたぞ。さっき」


 久川の言葉に被せるように言った。思わず宿海を見る。面食らったような顔で固まっていた。
 どこにいたのかという問いにあっちの沢の方と指差す。


「よっしゃ、行くぞ!」

「お、おい」


 駆け出す久川と追い掛ける安城。止めるように発した宿海の声はやっぱりその二人のどちらに向けられたものじゃないように見える。


「お前だけじゃなかったみたいだな」

「は? なにを」

「めんま、見えるの」


 勝ち誇ったような口振りに自然に眉間に皺が寄った。
 久川に呼ばれた宿海が二人の後を追い、鶴見も静かに歩き出した。


「なまえは行かないんだな」

「そうだね」

「信じてないのか?」

「……どうかな。でも、宿海が嘘を吐いてるとは思わない」


 睨まれた。
 二人で肉と野菜を黙々と焼く風景はどこか滑稽だろう。
 足音がいくつも聞こえてきた。四人が帰ってきたのか。


「おつかれ、肉焼けてるぞ」

「野菜もね」

「ゆきあつもあだなもなにくつろいでんだよ」

「火を放っといたら危ないでしょ」


 火事になったら洒落にならないと答えたけど松雪は違ったらしい。


「めんまの頼みだからな」


 ぱち、とまた炭が爆ぜる音がした。


「めんまが俺の前に現れた時言ってた。これ以上騒ぎ立てないでくれって」


 その言葉に彼女の願いを叶えることはやめた方がいいのかなという雰囲気が広まる。


「うそつき」


 ああ、本当に嫌になる。
関わらなければいいのに放っておけばいいのに。なのに、自分勝手な感情が溢れ出てくる。


「あの子が……めんまがそんなこと言うはずない。本当のめんまだったらみんながめんまのこと思い出すの喜んでくれるはずだよ。あの子はそういう優しい子だったじゃない。迷惑だなんて思うなんてこと絶対にない!」


 松雪を思いきり睨む。


「あんたはめんまのことなんにもわかってない」


 それだけ言って逃げるように走り出した。
 なにやってるんだ、わたしは。


迷走、疾走










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