あっちに荷物を取りに行ったり、病院に通ったりしてるとあっという間に夏休みは終わった。 転入手続きは終わっても制服の手配が間に合わなかったので以前の高校の制服に袖を通す。薄いブルーのカッターシャツにブルーグレーのチェックのスカート。最後にチャコールグレーのニットタイを絞める。これから通う高校の制服とは似ても似つかない。そのせいか校内での視線が痛い。 職員室に挨拶をしに行くと担任となる教師に教室まで案内された。親の事情で転校してきたと簡潔な説明をされる。 「みょうじなまえです。よろしくお願いします」 短い自己紹介をしてから教室内に視線を巡らす。そこには二つ知った顔があった。向こうも驚いたようにこっちを見ている。 この間の久川といい、今更どうして顔を合わせちゃうんだろ。暦的には初秋だっていうのにまとわりつくような暑さを残した夏はまだわたしを解放してはくれない。 指定された席に座る。 慣れないクラスの雰囲気に肩が凝りそうだ。 「みょうじさんって地元こっちなのに県外の高校に行ってたんでしょう?」 「あそこの高校ってどんな感じなの?」 矢次に質問を投げられる。 一人暮らしがしてみたくてとかこことあんまり変わらないよとか適当に返す。止まらない質問に疲れてトイレに行くと言って席を立った。 「みょうじ」 教室を出ると呼び止められた。表情筋が固まる。 「久し振りだな。折角いいとこ受かったらしいのに災難だったな」 「本当に……」 神様はとことん意地悪だ。違う学校だったらとまでは言わないからクラスくらい違ってもいいじゃないか。 「そういえば、宿海元気してるの?」 久川が来た日のことを思い出し、暑さにやられてるであろう人物の名前を口に出す。松雪は一瞬眉を顰めてから、皮肉混じりの笑みを浮かべた。 「元気そうだったよ。まぁ、あいつ受験失敗してから引きこもりみたいになってるけどな」 あの頃の宿海からは考えられない状況に目を丸くする。 「おかしなこと言ったしな」 不機嫌そうな言葉。 松雪もわたしと同じだ。あの日からこれっぽっちも動けていない。夏に囚われた哀れな一人。めんまの幻覚を見ている宿海もきっとそうなんだろう。 「久川から聞いた。夏だし暑さで疲れてるんだろうね」 熱に浮かされてるだけ。そして在りもしない蜃気楼に惑わされる。 みんな、あの夏に取り残されている。もしかしたらあの子を残して先に進むことを恐れてるだけなのかもしれない。 縫い付けられた影 ← |