重い荷物を肩に掛け直す。ボストンバックじゃなくてキャリーにすればよかった。
 そんな後悔をしながら額に滲む汗を拭った。半年くらいしか経ってないのに久し振りに感じる。この風景も匂いもなにもかも。
 夏、だな。
 改めて思った。この気だるい気候も蝉の声も眩しい太陽もなにもかもが嫌になる。
 今年の夏は特に暑い。
 目眩と同時に蜃気楼が見える。
 あの頃のみんなの後ろ姿。綺麗な長い髪をふわりと広げながらあの子がこっちを向いた。


 ──おかえり


 声は聞こえなかった。でも、動いた唇は確かにそう言っていた。
 思わず泣きそうになる。倒れてしまえば楽かもしれない。
 忘れることなんかできない夏の幻がわたしを待っていた。
 もう何年か経つのに、あの日のこともあの想いもなにひとつ自分の中から消し去ることは出来ていない。

「……暑い」

 まだ終わらないあの日の夏。
 わたしは、わたし達は、いまだにあの日から一歩も動けていないのだ。
 そしてわたしは帰ってきた。この町にあの夏に帰ってきてしまった。



終わらない夏










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