「なに、その顔!」


 顔を合わせた瞬間に笑われた。


「泣くほどあたしに会えるのが嬉しかった?」


 ひーひーとお腹を抱えながら笑うのは以前の高校の友達。
 泣いていた昨日の夜、遊びに行くとメールがきた。学校に行きたくなかったからいいよと返信してこうして学校を休んで会っている。


「いやぁ〜びっくりしたよ。夏休み終わって学校行ったらなまえ転校してんだもん。事前に言えっての」

「なんかバタバタしてて忘れてた」

「この薄情者ぉ」


 ぐりぐりと肘をめり込ませてくる。地味に痛い。
 こうやって会うとやっぱり今の学校の子達とは雰囲気が違う。学校サボって遊びに出るなんてことはしないだろう。


「たった半年振りだけど地元はどう? なつかし?」

「んーそこそこ。幼馴染みと久し振りに喋った」


 幼馴染みという単語に「恋の定番じゃん!」とテンションを上げてきた。


「なまえって意外にモテてたのに彼氏作ってなかったでしょ? さてはその幼馴染みの中に初恋の相手でもいるなぁ」


 にやにやと嫌な笑みを浮かべて聞いてくる。変なところで鋭いんだから。


「はずれ」

「嘘だねー。その泣き腫らした目もあやしいもん」

「昨日観た映画が感動系だったの」

「つまんないー」


 人の恋愛で遊ぶな。
 でも、こうやって話してると少し楽になる。鶴見と松雪が同じクラスってのもあるけど学校で肩に力入れすぎなんだろうなぁ。
 カフェに入って共有した半年の思い出とかをぐだぐだと話す。


「こっちの文化祭はオバケ屋敷やるよ」

「定番だなぁ」

「あんたのとこも喫茶ならコスプレ系にすりゃ盛り上がるでしょー」


 いや、それはない。そういうノリのあるクラスじゃない。そもそも変な格好したくないし。


「あのさ、オバケとかって信じてる?」

「オバケ屋敷やるからってそういうの信じてる訳じゃないよ。むしろ信じてないからやるって感じ」


 本当にいたら怖くて出来ないとアイスティーを啜る。そうだよなぁと納得しながらわたしは一緒に頼んだケーキを食べた。


「でも、居たらいいなって思う時はあるかなぁ」

「え?」

「ほら、愛犬のユーレイとか怖くないのだったら居て欲しいなって」

「なんで?」


 知らず知らずの内に体を前に乗り出してしまった。友達はそれを気にすることなく続ける。


「あたし、おばあちゃんっ子だったから。居てくれたら寂しくないでしょ?」


 寂しくない、か。


「それに、おばあちゃんが死んじゃった時にもっとああしてあげたらよかったとか後悔したことをやり直せるし。まあ、居たとしても霊感ないから見えないんだけどねー」

「……やり直せるのかな」

「なんか言った?」

「なんでもない」


 あの子がいなくなって後悔したことはたくさんある。それをすべてやり直すのは無理なのはわかる。
 でも、今回のことがなにかをやり直す機会ならあの子のお願いを叶えることがそうなのかもしれない。もしそうじゃなかったとしてもいい。あの子のためになにかしたいと思うのが罪滅ぼしの気持ちからでも、もう後悔はしたくないから。




手をのばす
(小さな背中が脳裏から離れない)










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