アカペラカラオケ喫茶ってなんだよ。なんというか面白味に欠ける。前の学校だったらなにやってたんだろう。
 王大付属の生徒は本当に真面目な人ばっかりだけど、前の学校は進学校とはいえ要領のいい子が多かったから適度に遊んでいた。地毛が明るい方だから染めてなかったけどピアスなんてあけてしまったわたしは現在割りと浮いている。お陰で今の楽しみといえば以前通ってた道場に顔を出すくらいだ。


「宿海?」


 帰り道をちんたら歩いてると神社の前に宿海が居た。誰かと待ち合わせでもしてるのかな。


「あれ? 文化祭の準備でとっくに学校終わってたんじゃないのか?」


 制服姿のわたしに首を傾げる。


「道場寄ってたから。って、なんでそんなこと知ってんの?」

「まだ通ってたんだな。学校のことはつるこに聞いたんだよ」


 宿海の視線の先を追えば鶴見と安城が居た。随分と仲がよろしいようで。


「ねぇ、横いい?」

「ああ」


 許可が出たから並んで座る。結局宿海がなにをしてるのかはよくわからない。


「あのさ、あだな」

「なに?」

「こないだはありがとな」

「お礼を言われるようなことしてないけど?」

「めんまがそう言ってたんだよ」

「なら、尚更わたしはなにもしてないよ」


 あんなのただのわたしの妄想だ。本当にめんまがそこに居たのならわかるでしょ。
 そうであったらいいというわたしの願望でしかない。


「近くにめんま居る?」

「あだなは信じてるのか?」

「あんたが嘘吐いてるとは思えないだけ」


 そう答えれば「そこにいる」とわたしの横を指差した。でも、やっぱりわたしには見えない。そこにはいつもと変わらない風景が存在している。


「おかえり、めんま」


 わたしがここに帰ってきた時に夏の幻が言った言葉を彼女に投げ掛ける。めんまが帰ってきたことはいいことなのかわからない。でも彼女は帰ってきたんだ。だから、それだけは言っておきたかった。


「宿海」

「なんだよ」


 わたし達はあの夏から抜け出せるのかな。


「なんでもない」


 流石に聞けなかった。
 めんまが居なくなって止まった時間。なら、この子が帰ってきた今なら動き出すことが出来るかもしれない。
 めんま、そこにいるなら教えて。わたし達はどこに向かえばいいの。


「ゆきあつ!」


 ぼんやりしていたわたしの横で突然宿海が立ち上がった。ランニング中の松雪と目が合う。
 わたしは自分で発した言葉通りあのバーベキューの日から松雪には近寄っていない。向こうもなにも言ってこない。
 一定のリズムで走りながらわたし達の前を平然と通り過ぎる。一瞬寂しいと思ってしまった自分が嫌になる。
 信号で立ち止まった松雪に宿海がなにか言っている。でも、あいつはそれが聞こえていないかのように赤信号をただ見つめていた。


「俺のめんまがっ」


 青に変わって再び走り出した松雪の背中に叫んだ。
 感心するところじゃないけど地雷を踏むのがうまい。


「おまえの見ためんまは偽物だって……」


 ごにょごにょと喋る宿海に苛立った表情で距離を詰める松雪。


「気安く話し掛けんな、負け犬」


 その音がはっきりと聞こえた。そして、また走り出す。
 負け犬はどっちだ。昔から宿海に対抗意識燃やしてたのに一度も勝てなかったくせしてよく言うよ。




わん、と吠える
(つまりは負け犬の遠吠え)










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