呪われる。
なんて不吉な言葉だろうと夏目は視線を足元に落とした。
最初はきっと些細なものだったのだろう。神崎と目が合った人がたまたま転んだとか鉛筆を無くしたとか。それが気付けば大きくなった。彼女と肩がぶつかった人が骨折をした。言葉を交わした人は登校拒否になった。その中にどれほどの事実が含まれているかは誰も知らない。
「神崎を呼んでくれるか?」
放課後、夏目は三組に足を運んだ。そこで彼女の名前を出すと夏目が声を掛けた生徒は顔をしかめた。
「あいつならいないけど」
「もう帰ったとか?」
「さあな。あいつになんの用だ? 関わらない方が身のためだぞ」
冷たい生徒の視線に嫌な記憶が蘇る。今は自分がそれを向けられている訳ではないのについ自分に向けられているように感じてしまう。
異端を排除しようとする人間の性質を夏目はよく知っている。わからないものは気味が悪い。恐ろしいのだ。だからこそ、自分達と違うものを遠ざけようとする。
彼らに悪意がある訳ではないこともわかっているが、酷く胸が痛んだ。
「おれは呪いなんて信じてないから」
それだけ告げて三組を後にした。まだ校内に残っているかもしれないとあちこち見て回る。
「あ」
図書室で探していた少女を見つけた。他の生徒から離れた窓際の隅の席で読書に耽っている。
静かに息を飲んだ。
自分を襲ってきた相手に対する恐怖心ではない。友人帳のことを知っていて、それを欲しているということは神崎も“見える”人かもしれない。そんな期待から緊張が走る。
「夏目?」
背後から掛けられた声に肩が跳ねた。
「た、田沼」
「どうしたんだ? 探し物なら手伝うぞ」
「探し物っていうか探してた人はもう見つけたんだ」
「人?」
夏目の視線の先を田沼は追う。そこに図書室でよく見掛ける少女が居たことに更に首を傾げた。
「……あの子も見えるかもしれないんだ」
彼の疑問を読み取ったのか聞かれる前に夏目は答えた。
夏目が妖が見えるということを田沼は知っている。田沼自身は妖を見ることは出来ないが、ぼんやりと存在を感じとることができる。共有した秘密があるからかこうやって夏目は嘘を吐かずに済む。
この話に興味を持ったのか田沼も夏目と一緒に窓際の席に向かう。近付いても神崎は集中しているのか少しも顔を上げない。
「神崎、ちょっといいか?」
名前を呼べば驚いたような表情を彼女は見せた。呼んだ人物を確認して更に目を丸くさせる。