人がまばらな放課後の図書室。それでも、課題をこなす集団や静かに読書に専念する者など様々だ。そんな中で窓際の隅の席に一人離れて本を読み耽っている少女が居る。まるで壁に取り囲まれているかのように彼女の近くに誰も寄り付かない。
ふわり、と風がカーテンを揺らす。風に少し乱された髪を撫で付けながら本から少女は顔を上げた。壁に掛けられた時計が下校時刻間近なのを告げている。
本に栞を挟むとそれを鞄にしまって彼女は立ち上がる。そして、本棚の間をゆっくりと歩く。本に取り囲まれた空間が落ち着くのか穏やかな表情でそれらを物色した。
「んっ」
気になる本があったのか足を止めて少女は手を伸ばした。しかし、彼女の身長ではつま先立ちをして懸命に手を伸ばしても苦しげな声が漏れるだけだった。
近くに台がないか見回すが、その代わりになりそうな物すらない。彼女は諦める気がないらしく、近くに人が居ないのを確認してから本棚の前でジャンプした。何度か挑戦するもののうまく指先が本の背に引っ掛からず取れない。
「この本か?」
背後から伸びてきた手が軽々と少女が取ろうとしていた本を抜く。驚いて振り返ると黒髪の少年が居た。
「飛び跳ねてるからなにしてるのかと思った」
くすくすと小さく笑われ、見られていたのかと少女は顔を赤くして俯いた。
「あ、悪い。別にバカにした訳じゃないんだ」
慌てたように少年は弁解する。その必死さから悪気がなかったのだということは少女にもわかった。それでも、あの光景を見られたことには変わりなく、恥ずかしさは消えない。
「頑張るのはいいけど、無理な時は誰かに頼んだ方がいいぞ」
俯いたままの彼女に少し困ったような笑みを向けて本を差し出す。
「……善処する」
か細い声で返事をしながら少女はそれを受け取った。
「それじゃあ」
頷いたのを確認してから少年はその場から離れていった。少女は慌てて顔を上げたが結局声を出すことができず、お礼を言いそびれてしまったとぼんやりと彼の背中を見送った。