暫く経ってから陽日先生がもういいから先輩と回ってこいとめずらしく気を遣ってくれた。
 執事服から着替えて戻れば、月子ちゃんが先輩との別れを惜しんでた。すっかりあの人になついてしまったらしい。先輩も先輩で満更じゃない顔をしているしなんだか面白くない。


「ほら、折角来たんですし案内しますよ」


 僕が声を掛ければ先輩はなぜだか小さく笑う。肩を震わせる先輩に意味がわからないと言えば、気にするなと返すだけで理由は教えて貰えなかった。
 大学でも文化祭に参加していなかった先輩は分かりにくいけど目を輝かせながら色々見て回る。


「なんだかどれも手が凝っているんだな」

「最後にもっと凝ってるもの見に行きませんか?」


 大方見て回り、時間もいいのでスターロードを提案する。あそこはジンクスが学生の中で有名だけど、未だに恋愛はゲームだと思ってる僕とそういうものに興味のない先輩の前ではなんの意味もなさないだろう。
 あのジンクスには触れないままスターロードまで向かう。僕が生徒として通っていた時と変わらない光景がそこにはあった。


「本当に星の道みたいだ」


 イルミネーションの光が先輩の瞳に映る。幻想的とも言えるスターロードに哲学的な頭の先輩も素直に感嘆の息を漏らした。


「今日は来てよかった」

「急にどうしたんですか?」


 しみじみと呟いてスターロードを歩き出した先輩の背中を追う。いつだって先を歩くその背中が今日はいつもより遠く見える。


「君がちゃんとやってるのが分かったからね」

「そりゃ単位がかかってますからね」

「やっぱり素直じゃないな。水嶋はいい意味で変わったよ」


 振り返った表情は僕が大好きだった姉さんのものとよく似ていて目眩がした。どこにも似た部分なんてないはずなのに。
 ほら、まただ。また先輩は中身を見透かしているみたいに僕をその目に映す。


「あとは恋愛がゲームだなんて子供みたいな考えを捨ててくれれば言うことはないな」

「何言ってるんですか」


 僅かに震える声でいつものように茶化そうとすると先輩が僕の名前を呼んだ。


「人は思い出だけじゃ生きられない」


 子供に言い聞かせるみたいな優しい口調。口元に綺麗な弧を描いているのに悲しそうに見える。長い付き合いだと思ってるけどこんな顔を見たのは初めてだ。


「君を見ていれば過去になにかあったのくらいは分かる」

「それは先輩の勝手な妄想ですよ」

「私と似てるから分かるよ」


 目を見開く。


「当たり前だが私にも先輩が居た。とても変な人だった」


 懐かしむように目を細めた先輩。
 この人に変と言わせるとは相当変だったんだろう。




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