僕自身も気紛れだけど、先輩もすごく気紛れだと思う。
 いつだか微妙な別れ方をしたというのに星月学園の文化祭に来ないかと先輩に声を掛けた。基本的に研究で忙しいあの人のことだから断られるかと思っていたら「君が先生をしている姿を見るのは面白そうだ」と返ってきた。
 先輩が来るのはいいけど、あの人はしっかりしているようでどこか抜けている。僕が居る教室は教えたけど方向音痴だから迷っているんじゃないだろうか。学園に着いたら連絡を入れるなんていうことを先輩がするとは思えないし。


「水嶋先生、どうしたんですか? なんだかさっきから携帯気にしてますけど」

「ちょっとね。ねぇ、今抜けてもいいかな?」


 少しだけ落ち着いてきた教室内を見てメイド姿の月子ちゃんに聞く。鈍感なようで変なところで聡い彼女は相変わらずの無防備な笑みを浮かべて大丈夫だと言った。


「ありがとう」


 お礼を言ってから教室を出る。
 やっぱり誘わなければよかった。子供と言っても男ばかりの学園だ。顔だけはいい先輩が放っておかれるはずがない。
 自然と先輩を探す足が早くなる。すると、校門の近くで生徒達に囲まれている先輩が見えた。


「水嶋、君はいつから執事になったんだ?」


 僕の存在に気付いたのか、先輩は周囲の生徒を完全に無視して目を丸くした。


「クラスの出し物の衣装ですよ」

「随分と馴染んでるんだな」


 どこか嬉しそうに先輩は言う。
 あれだけ僕に心配を掛けさせておいてこれだ。さっきまで居た生徒達も僕の連れだと理解したのかもう散っている。
 そもそも先輩が男に囲まれたからってどうにかなるはずがないんだ。月子ちゃんと違って無防備じゃないし、変人であるものの常識はあるから大人としての対応も取れる。はっきり言って振り回され損だ。


「疲れた顔しているね。若さに当てられたのかい?」

「僕はまだまだ若いですよ」

「それより、ここは広いな。水嶋がタイミングよく来てくれたから迷わずに済んだよ」


 安堵の息を漏らす先輩はやっぱり僕に連絡を入れるということが頭になかったらしい。この人、本当は馬鹿なんじゃないだろうか。
 ここに来るまでに既に疲れたというインドアな先輩を天文科の教室まで連れていく。混んでいるとは言え一人分の席はあるだろう。


「郁ちゃん先生の彼女?」

「年上と付き合ってるのかぁ〜」


 様々なヤジが飛んできたが先輩はやっぱり恥ずかしがったりすることなく違うと簡潔に否定した。


「教師は似合わないと言ったけど、案外向いてるみたいだな」

「そうですか? 僕は向いてないと思いますけど」


 面倒なことは多いし、男ばっかりだし、楽しくない訳じゃないけど教師が向いてるとは思えない。


「君は素直じゃないからな」


 見透かしたように笑うけれど、それは先輩の勘違いだ。


「僕はいつだって素直ですよ?」

「そうだったのか。ほら、忙しいんだから働いてきなさい」


 適当にあしらわれ、ついでにコーヒーと似合わなすぎるパフェを注文してきた。
 僕が離れると待ってましたと生徒達が先輩に群がる。月子ちゃんや直獅先生、琥太にぃまで代わる代わる先輩に話しかけに行った。僕だけ働かせてひどい話だ。

 


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