校内の見回りをしていると窓の外に見知った姿を見付けた。いるはずのないその人に目を丸くする。当たり前だけど向こうは僕に気付かずきょろきょろしながら歩いている。
 放っておけばいいのに僕はその人のところに向かう。文化祭でのこともあって話し掛けにくいはずなのに無視ができない。本当に厄介な人だ。


「何してるんですか?」

「水嶋、いいところで会った」


 困っていたような顔をぱっと明るくさせた先輩。あの日、僕と話したことなどもう覚えてないみたいな態度に安心しつつも少し不満が残る。


「必要な資料を取りに来たんだが図書室の場所が分からなくて、道案内を頼めないか?」


 なるほどね。宇宙論研究室に属してる先輩にとって星月学園の図書室は宝の山だ。普段は取り寄せてけど今回は急ぎだから自分から取りに来たらしい。


「渡米する前に仕上げておきたくてな」

「……いつ、出発するんですか?」

「11月の頭だ。今月中に行きたかったが準備が間に合わなくて」


 もうすぐ先輩が居なくなる。こうやって偶然会うことも今までみたいに気軽に会うことも出来なくなる。


「どうした?」


 不思議そうに僕の顔を覗きこんできた。先輩の瞳に映った僕は酷く情けない顔をしてて驚いた。


「別にどうもしませんよ」


 誤魔化すように言う。
 別に先輩と会えなくて困ることなんかないじゃないか。遊びで付き合ってきた女の子達と違って頻繁に会っていた訳でもなんでもない。ただなんとなく会っては先輩の説教を聞かされたり、なんでもない話をしていただけ。口うるさい人が居なくなるだけなこと。


「君は本当に素直じゃないな。可愛いげというものがない」

「可愛いげがないのは先輩ですよ」

「後輩に対して可愛いげを見せてどうする? 先輩として君には威厳を保っているのだよ」


 威厳というものを見せられた覚えはない。どこまでもストイックに研究に没頭する部分はすごいとは思うけど、真似したいとは思わない。


「失礼なことを考えていただろ?」

「先輩はエスパーかなにかですか?」

「非科学的だ。単純に君の表情から読み取ったまでさ」

「やっぱり先輩は変ですね」

「そんなこと言いながら私になついてる君だって十分変だ」


 くすくすと笑う横顔を見る。
 月子ちゃんと違ってこの人はからかいがいがない。むしろ僕の方がからかわれてるんじゃないかとすら思う。




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