「本来守られる立場のはずなのに、どうしようもなく優しくて強い人だったからいつも誰かを守っていたよ」
自分も何度も守られ助けられてきたと言う。先輩が誰かに助けられたり姿は想像出来ない。この人は自分の足で立って、その目でいろんなものを見極めて現実と向き合っている。弱さなんてものとは無縁のように思える。
「それが災いしたとしか言いようがない。先輩は私の目の前で川で溺れた小学生を助けてそのまま亡くなってしまった」
突然大切な人がいなくなる理不尽な現実を先輩は目の前で見ていたのだ。そして自分自身の無力さを突き付けられた。
「同性を好きになるなんて不毛な話だけれど、誰よりも強く優しい先輩が好きだった。もういないという事実が重くて、思い出だけにすがって生きてきた。でも、それじゃ駄目だったんだ」
弱々しく微笑む。先輩がイルミネーションの光の中に溶けて消えてしまいそうで僕は一歩も動けなくなった。
「思い出だけじゃ寂しいだけだ」
あたたかい記憶がある分、それにすがればすがるほど現実が寒くて耐えられなくなってくる。
先輩はそれを知っていた。だからだろうか、先輩の言葉が重くのし掛かってくる。
「でも、今の水嶋はもうそれを理解しているはずだ。君もきっと前に進める」
「……先輩が本心を見せるなんて珍しいですね」
この重さに耐えきれず口を開いた。先輩もいつものように笑った。
「私はいつだって本心を晒してたと思うんだけどな」
「いつもは核心は見せないじゃないですか」
「君の理解力が乏しいのさ」
そう。いつも通りのはずなんだ。なのにやっぱり何かがおかしい。
「今日の先輩はいつも以上に変ですよ」
「失礼な奴だな」
少し困ったような顔で僕に文句を言うのだってお決まりの流れだ。
違うと感じるのはスターロードのせいだろうか。美しすぎるこの光は僕達には似合わない。眩しすぎて普段見えない部分が浮き彫りにされているのかもしれない。
「今度日本を発つんだ」
再び歩き出した先輩は僕に背中を向けたまま唐突に告げた。
「今の教授が推薦してくれて、私がずっと憧れていた教授の下で勉強出来ることになった」
「それは……おめでとうございます」
「ありがとう」
この後、何を話すでもなくただ歩いた。後夜祭の喧騒すら耳に入らず、バス停まで向かう先輩を見送った。
一生会えない訳でも連絡が取れない訳でもないのにいつかと同じ喪失感が僕を呑み込んだ。