赤司征十郎。帝光バスケ部主将であり、キセキの世代とか呼ばれて全国の強豪校から勧誘が来ている。ちなみに頭もいいし顔面レベルも高い。


「なまえ、進路提出したかい?」

「わたしの成績で行ける高校を必死で探してる途中だよ」

「ああ、洛山か。勉強くらい教えてあげるから安心していいよ」

「そんなこと一言も言ってないし頼んでないんだけど」

「え?」

「なんでもないデス」


 こえーよ。笑顔から一瞬で無表情になるとかやめて。ついでにシャーペンを眼球に突き付けないで!
 平凡なわたしに天才様が構う理由はひとつ。わたしと赤司が幼馴染みだからというだけ。
 たったそれだけの理由しかないはずなのに異様に執着してくる。
 昔からそうだった。なにかとわたしを隣に置きたがり、自分以外の人間と接点を持たせないようにする。


「なまえは僕がいないと何も出来ないからね」


 そして、このお決まりの台詞を吐く。
 別にわたしは赤司がいなくて困ることはない。むしろこいつがいて困ることのが多いくらいだ。例えば小学校の調理実習では包丁を握ろうとすれば怪我するからと何もさせてくれなかったり、体育の時は靴ヒモがほどけたら真っ先に駆け寄ってきて「なまえは不器用だから」とご丁寧に靴ヒモを結び直してきたり。兎に角、無駄にわたしを甘やかしてくるのだ。
 赤司は完璧だけど、その分どこかが壊れてるんだと思う。赤司には逆らえる人は誰もいないけど、きっとこいつを心から慕う人もいないんだろう。


「もう何も出来ない子供じゃないよ」


 ぼき、と嫌な音がした。


「何言ってるんだ?」

「ちょ、手……!」


 赤司が握っていたシャーペンが真っ二つになっていた。しかも欠片が刺さったのか赤が滲んでいる。


「なまえは僕が居なきゃ駄目だろ? 僕から離れるなんて許さない」

「その話は後で聞くから! まずはペン放して!」


 赤い瞳がぎらぎらと睨み付けてくるけどそれどころじゃない。握る力を更に強くしてるのか手からどんどん血が流れてくる。


「今までだってこれからだってずっと手放す気はない」

「征十郎!」


 聞く耳を持たない幼馴染みの名前を叫ぶ。中学に入ってからはずっと名字で呼んできたけど久し振りに口にしてみればこっちのがいやにしっくりくる。


「わかったから。まずは手当てさせて」 赤く染まった握りこぶしを無理矢理開いていく。ペンの欠片とかが刺さって痛々しい。


「バスケやるのに大事な手なんだから気をつけてよ」

「ああ……そうか」


 何かに気付いたように赤司は呟いた。そして、薄い笑みを浮かべてわたしを見つめる。さっきまでとは違ってどこか虚ろな瞳に背筋が凍った。


「なまえは確かに何も出来なくないね」

「う、うん」

「でも、僕はなまえが居なきゃ何も出来ないみたいだ」

「は?」

「なまえが居ないと自分の手すら大事に出来ない。だからオレと居てくれるよな?」


 一体どこで間違えたんだろう。こんな風になりたかった訳じゃないのに。もっと普通の幼馴染みとして同じ場所に立ちたかっただけなのに。なにもかもがきっと手遅れだったんだ。













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