「寒い! 寒いよ、鴨太郎っ」
ガタガタと震えながら叫ぶと隣の幼馴染みはこの空気よりも冷たい視線をわたしに向けてきた。
「君の存在のが寒い」
「ひどい!」
「そもそも寒いならもっと厚着をしろって言ってるだろう。馬鹿みたいに薄着をしてる自分が悪い」
これだから頭の固いやつは……。女子高生として一般的な露出であり、薄着だっていうのに馬鹿とか言いやがって。
わかるかい? この大きめのカーディガンからちらっと覗くスカートの健全なエロリズムが。寒さに耐えながらのナマ足とハイソックスの絶妙なバランスが作り出す美脚効果が。
「そんな下らないことに脳味噌を使う暇があったら公式のひとつでも覚えたらどうなんだ。赤点を取って卒業出来なくなっても僕は知らないからな」
「お前、少しは理解を示せよ! 赤点にならないよう勉強教えてよ!」
「ついでに君がどんなに頑張ろうとその幼児体型に色気は感じないし、足も残念なままだ」
「ちくしょう」
人の気にしてることばっか言ってさ。もう涙目だよ。寒さよりも鴨太郎の言葉が痛いよ。こいつ、幼馴染みに対する優しさとか持ち合わせてないのかよ。
あーもうやだ。学校着いたらジャージはこう。ついでに銀ちゃんにホットココアでもたかろう。ホットのいちご牛乳出されたらどうしよう。それはそれでおいしいかもしれない。
はぁとかじかむ手に息を吐きかけながら歩く。手袋くらい買おうかな。でも、そうすると携帯いじりにくいしなぁ。
「さっきからなに百面相してるんだい? どれもアホ面過ぎて公害として訴えられるんじゃないか」
「公害言うなっ」
鴨太郎のマフラーを勢いよく引っ張って首を絞める。間抜けな声が聞こえてちょっと勝った気分になった。
「離せ……っ」
「ふーんだ。ひどいことばっか言う鴨太郎が悪い」
「僕は事実を言ったまでだ」
「ほほう。まじで三途の川を渡りたいみたいだね」
口許をひきつらせて更に力強くマフラーを引っ張った。すると流石の鴨太郎も苦しかったのかギブと言うようにわたしの手をばしばしと叩いてきた。ざまあみろ。
「君ってやつは……」
手を離してあげると咳き込みながら恨めしそうに睨まれた。暴言吐かれまくったわたしのが睨みたいわ。
「口で勝てないからって手を出すところは昔から変わらないな」
「口ばっかしの鴨太郎に言われたくない。このぼっちめ!」
「誰がぼっちだ、誰が」
ふん、と鼻を鳴らしてそっぽを向く。
そうやってひねくれてるから友達出来ないんだよ。優しいわたしがどれだけ心配してるかも知らないんだから。
「鴨太郎はもっと素直になればいいのに」
そしたら友達だって簡単に出来るはず。ずっと一緒に居るわたしが口は悪いけど根はいい奴だって保証するんだから。
寂しがり屋なくせに強がってるからだめなんだよ、とか言ったら怒られるから言わないけどさ。
「別に友達なんか必要ない」
そっけなく言う鴨太郎。本当素直じゃない。
「なまえが居るから十分だ」
「え?」
思わぬ言葉に目を見開く。
「これ以上うるさいのが増えても邪魔なだけだ」
相変わらず暴言を吐かれたけど今回ばかりは許してやろう。耳を赤くしてるのは寒さのせいじゃなさそうだから。
「仕方ないから鴨太郎の側にずっと居てあげるよ」
「遠慮しておく」
「素直じゃないなぁ」
にやにや笑うわたしを無視してさっさと歩く背中を追う。なんだかんだでちゃんとわたしの追い付くペースで歩いてくれたり、鴨太郎のコートのポケットにカイロが2個入ってるのも知ってるよ。
幸福になる覚悟はあるか「鴨太郎、寒い!」
「うるさい」
隣まで追い付いたわたしにカイロが投げつけられるまであと3秒。
title by 亡霊