綱吉くんの家に帰るとリボーンくんが待ち構えていた。私に与えられた部屋に引き摺られていくと元々置かれていたローテーブルの上にコーヒーが用意されていた。


「そこに座れ」


 彼はちゃっかりベッドの上に座り、向かい側の床を指差す。
 一応ここは私の部屋ということになっているはずなんだけど。
 そんな細かいことを気にしても実際はゲストルームで私のものではないのでおとなしく床に座った。コーヒーは二つあるし、有り難く頂くことにしよう。


「考えは変わったか?」

「マフィアには入りませんよ」


 カップをソーサーの上に戻す。リボーンくんは言葉の続きを待つように私を見ている。


「綱吉くんは本当にいい子だと思います。あそこまで人間性に問題のない人は私の周りには居ませんよ」


 しかし、その“いい人”というのが問題と言えば問題だ。彼が行こうとしている世界の価値観から見ればの話だけど。


「彼は自滅しますよ。あの優しさは仇にしかならない。あちら側の世界に行けば精神崩壊を起こしても不思議じゃありません」

「あいつはそんなに弱くはないぞ」

「そうでしょうか。彼は人を虐げることに殺すことに耐えられますか? 人を切り捨てることが出来ますか? マフィアのボスという重圧に潰されませんか?」


 この二週間程、彼を見てきたが耐えられないし、諦められないし、潰されるだろう。己の無力さに絶望する姿しか浮かばない。
 綱吉くんにあちら側の世界は似合わない。
 それだけは言いきれる。


「おまえはわかってないな」


 赤ん坊がシニカルに笑った。その表情が異様に似合っていて、リボーンくんがあちら側の世界で生きていたことを物語ってるようだった。


「これでも人を見る目はあると思うんですけどね」

「まだまだだ」

「手厳しいですね」


 大きな黒い瞳を見る。底知れないものが其処にはある。それが何なのかが解らない私は、確かにまだまだなのかもしれない。
 アルコバレーノ。
 調べても呪われた赤ん坊としか出てこなかった。豹くんにも手伝って貰ったのに、だ。呪いというから《呪い名》の方でなにかないかと思ったのに空振りだったし。本当に解らない存在だ。
 そもそも私をマフィアに入れようとする意図も解らない。技術者が欲しいのだとしてもボンゴレには既に優秀な人材は揃っていた。頭数を揃えたいという理由なんだとしたら別の人を当たって欲しい。


「まあ、すぐにお前にもわかる。ところでだ」


 そこら辺の男性よりも優雅な動作でコーヒーをリボーンくんは口に運ぶ。


「そろそろ自分が何者か白状する気になったか?」


 試すような視線に笑みを返す。
 技術者として買われた訳じゃなかったか。
 匂宮のあの片割れじゃないがこう言いたい。食えない奴は嫌いだ、と。



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