「おやおや、君は確かクラスメイトの汀目くんじゃありませんか」
モーター音だけが響いていた部屋の中。不穏な気配と共に誰かが入ってきた。そう気付いて振り返れば初夏という六月には不似合いな詰襟の学生服の少年。笑みを作っているせいかその顔に彫られた刺青が禍々しく歪んでいる。
「こうも易々と侵入されるようでは鍵など意味を為しませんね。用があるのなら手短にお願いします。他人が居ると気が散ってしまうので」
不法侵入者の同級生に再び背を向けてディスプレイに視線を戻す。下らないことに気を取られてこのデータを作るのが遅れてしまっては困る。
「お前、誰だっけ?」
乾いた笑い声の後に耳に入った問い掛け。
私を知っていてここを訪ねてきた訳ではないのか。一体この同級生は何をしに来たのか。
ああ、そういえばさっきから血の匂いがする。空気清浄機を稼働させた方がいいかもしれない。
「クラスメイトとか言ってたよな? つーことは学校のやつだよな」
「そうです。それ以上でもそれ以下でもありません。実際に顔を合わせるのは初めてですけどね」
手を休めることなく答える。
不登校の私と彼が顔を合わせるなどこういうイレギュラーなことがなければ起こり得なかっただろう。別に会いたいと思ったことはないけど。
「ぶっちゃけ誰でもいいけどよぉ──殺して解して並べて揃えて晒してやんよ」
不穏な台詞。
もう一度、彼を見ればその手には血にまみれたナイフが握られていた。
「さっきから臭いとは思っていましたが貴方が原因ですか」
溜息が洩れる。
全くどうしてこうもついていないのだろう。気紛れで選んだマンションでこんな災難に巻き込まれるなんて。大人しく自宅で作業していればよかった。一秒でも早くこれを終わらせて彼女に会いに行きたいのに。
「一応聞いておきますが、どうして私は殺されるんです? 初対面なのだから怨恨はないでしょうし、誰かの依頼か衝動的な殺人行為ってところでしょうか」
「理由なんてここに居たからで十分だろ。ん? 初対面? お前、俺のこと知ってんだろ?」
「知っているからと言って会ったことがあるとは限りませんよ」
安易な考え方だ。失礼だが見た目からして頭がいいとは思えなかったけど、こうも見た目通りだと不憫だ。
空のケースを探す片手でエンターキーを押しておく。見つけたケースにCD-Rを取り出して入れる。
「お前、変な奴だな」
カハハと笑う。
何がそんなに楽しいのか。単に笑うという行為が彼のスタイルなのかもしれない。
「不法侵入してナイフをチラつかせるような人に変な奴とは言われたくないですね」
「平然と逃げる準備してる奴がよく言うぜ」
流石に気付かれてたか。
わざとらしく肩を竦めてみせる。彼の表情はニヤついたまま変わらない。
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