リボーンくん達に見送られ、学校へと向かう。
義務教育のくせに休日に補習をするなんて熱心な学校だ。私なんか出席日数足りてなかっただろうに何も言われなかった。定期試験で点を取ってたのと学校のデータベースをちょっといじくったからかもしれないけど。
「ちゃんと行くなんて綱吉くんは偉いですね」
「行かないとリボーンが怖いし、卒業はしたいから」
本当にただの中学生だ。少しも擦れた所がない。いくらリボーンくんの命令だからといって得体のしれない私みたいなのと二週間も寝食を共にした上にこうして普通に喋っているし。こういう異常なくらいのお人好しな部分は少しだけ戯言遣いに似ているかもしれない。
ちらりと隣の綱吉くんを見る。補習が嫌なのか項垂れていた。
「綱吉くんは、よく解らない子ですよね」
「え? そうかな?」
大袈裟なくらい目を丸くする。こんなことを言われたのははじめてなのかもしれない。
「そうですよ」
私の周りには決して存在しなかった平凡すぎるくらい平凡な少年。なのに暴力の世界に属する組織のボスの立場になろうとしている。リボーンくんが撃ち込む死ぬ気弾というものがあれば実力もそれなりにあるのに普段はこんなもの。裏表があるようにも見えない。平凡故に私には理解出来ないのかもしれない。
「有無?」
「なんですか?」
「いや、なんか考え込んでるみたいだったから」
気遣うような視線。
彼の特徴といえば異様に勘がいい。人の機微に敏感だ。
「優しいですね、綱吉くんは」
「そ、そんなことないよ」
顔を赤くして慌てる彼は可愛いと思う。異性にあまり免疫がないせいかこういう反応が結構多い。好意を寄せる相手が居たらすぐに態度でバレてしまうタイプだろう。
「遅刻してしまいますし早く行きましょう」
からかうように綱吉くんの指に私の指を絡めて歩き出す。少し汗ばんだ手は緊張している証拠だ。
怖さからか恥ずかしさからか。それとも、その両方か。
若いっていいですね、と笑えば意味がわからないと首を傾げられた。
「お前! 十代目に馴れ馴れしいぞっ」
きゃんきゃんと子犬が吠えるように獄寺くんが絡んできた。綱吉くんの番犬というよりストーカーに近い気もする。
「親交を深めるにはスキンシップは大切ですから。なんなら獄寺くんも繋ぎますか?」
にこやかに空いている方の手を差し出せば、予想通り払い除けられた。
「リボーンさんが何を考えてるか知らねーが、俺はおまえを認めた訳じゃねぇ!」
「随分と私は嫌われてしまったみたいですね」
「獄寺君、落ち着いて」
頭に血が上りっぱなしの彼を綱吉くんが宥める。噛み付いてはこなくなったが鋭い視線がまだ向けられている。仕方がないので綱吉くんの手を解放した。
「十代目に何かするつもりならただじゃおかねぇからな」
「肝に命じておきます」
肩を竦めてみせる。
中学生というと一番年が近いのは萌太くんだろうか。彼じゃなく崩子ちゃんと比べても子供っぽい。あの兄妹が落ち着き過ぎてるのもあるけど、こんなに感情を露にするのも問題だろう。
これがマフィアだと言うなら本当ただのごっこ遊びにしか見えない。覚悟もなく飛び込めるほど暴力の世界は甘くない。彼らはこのままこの生温い日常に居る方が絶対に向いている。
「それでは、私は近くから観察させていただきますね」
並盛中学校と書かれた校門の前で二人にそう告げる。
「あ、うん。気を付けてね」
「安心して下さい。私はどこぞの戯言遣いと違ってトラブルメーカーではありませんから」
単独行動を心配してくれる綱吉くんとは対照的に獄寺くんは「さっさと行け」と言ってきた。どうしたら警戒心を解いて貰えるのか考えた方がいいかもしれない。
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