覚醒しきってないのか頭にまだ靄が掛かっている感じだ。
カーテンを開ければ黄色い太陽が目に刺さる。階下から聞こえる騒がしさ。あまりにも在り来たりで平穏な朝。
ぐっと腕を伸ばして筋肉を解してから部屋を出る。賑やかな声達を聞きながらゆっくりと見慣れない扉を開く。
「あ。おはようございます」
そこには太陽なんかよりずっと眩しい光景があった。
食卓を囲む家族。柔らかな笑顔。何を取っても私とは縁遠いものでまだ夢を見ているような気分になる。
「おはようございます」
朝の挨拶を綱吉くんと奈々さんに返す。もう二週間くらいここでお世話になっているのに未だに慣れない。
あの日、赤ん坊もといリボーンくんの勧誘を一度は断ったものの綱吉くんの観察をしながらもう一度考えて欲しいと言われて構成員候補としてこの家に泊めて貰っている。奈々さんは娘が出来たみたいで嬉しいと歓迎してくれた。
「今日から学校ですか?」
空いている席に座りながら綱吉くんの格好を見る。あの日以降酷い筋肉痛のせいで学校を休んでたみたいだから制服姿を見るのは初めてだ。
「休んでたからその分の補習なんですよ」
「敬語」
この家に来てから散々言ってるのにどうも怯えられてるのか敬語を使われている。
「普通に喋ってくれた方が私は嬉しいんですが……」
「き、気を付けるよ」
顔を覗き込むようにして言えば焦ったように食パンを口に詰め込む綱吉くん。
こういうリアクションも新鮮だ。いっくんなんてさらりと流すというか全力で拒絶してくるし。どうも私は人との距離が近いらしい。周りが大体こんなだったから気付かなかったけど綱吉くん曰く心臓に悪いそうだ。
「おまえも行くんだぞ」
目の前に紙袋を突き付けられた。その中身を確認すれば真新しい制服が入っている。
「リボーンくん、流石に無理です」
「サイズは問題ない」
「いや、そういうことじゃなくて。そもそもなんで私の服のサイズ知ってるんですか」
この横暴さに別の人物を思い出すせいかどうもペースが乱される。
「制服なんて中学生以来着てないですから完全にコスプレですよ」
「ツナを見極める為には学校での行動も知っとくべきだろ。それ着とけば大抵の奴は誤魔化せるから安心しろ」
この子は私をいくつだと思っているんだろうか。中学以来制服なんて着たこともないし、誤魔化せるものじゃない気がする。
「私服じゃ駄目なんですか?」
「ああ。生徒以外が学校内にいるとうるさいやつがいるからな」
「……はぁ」
納得は出来ないもののこれ以上押し問答しても意味がないだろう。諦めて紙袋を持って席を立つ。
「え? 本当に着るの?」
「逆らえませんからね」
目を丸くする綱吉くんに笑みを返す。やっぱり無理があると彼も言いたいんだろう。
妹キャラでいっくんに迫った時も捨て身だったけど、こっちのが遥かにキツい。
宛がわれた部屋で着替える。シャツもスカートも本当にぴったりだ。鏡の前で自分の格好を確かめてみるけどやっぱり残念な感じが拭えない。
「制服といえば萌え要素のはずなんですけどねぇ」
着る人によるということか。
ここを去る時には制服は有り難く頂いて《女王(レーヌ)》に差し上げよう。彼女なら違和感なく着こなせるし、可愛らしいだろう。
リビングに戻って綱吉くん達に制服姿を披露した。本当に中学生だった頃以来で色々不安はあるけどお世辞でも似合うと言ってもらえたから良しとしとこう。
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