「あの……本当はどうしてあそこに居たんですか?」
僅かに怯えながら小動物くんが聞いてきた。漸く話を聞いて貰える雰囲気になった。だからといって特に話すこともないんだけど。
「単なる退屈凌ぎですよ」
「え?」
「退屈だったから脱獄囚が何しに日本に来たのか確かめに行ったんです」
信じられないという顔を向けられる。これ以上なく正直に話しているっていうのにそんな反応されるとこっちが困ってしまう。
「本当にそれだけだったとして、どうしておれ達の前に現れたんだ?」
「興味があったからですよ、彼に」
赤ん坊の質問に小動物くんを指差して答えた。すると彼は「お、オレ?!」と素っ頓狂な声を上げて目を丸くしていた。
「六道くんと少し話した後に貴方を見掛けて尾行させて貰ったんですよ。いやいや、弱いのかと思ったら強いし、ヘドが出る程甘い。それがマフィアのボスだなんて言われたら興味が湧かないはずないじゃないですか」
改めて観察してもただの少年にしか見えない。六道くんと対峙して勝っただなんて自分の目で見ていなければ信じられなかったことだろう。
「納得……してくれてないみたいですね」
弱ったなぁと眉を下げる。
赤ん坊は値踏みするように私を見てるし、小動物くんはあわあわとしてて、他の二人も怪しんだようにしてる。特に銀髪くんの方なんて殺気立っている。
「逆に聞きますけど何を言えば納得してくれるんですか?」
これ以上私が何を話したところで彼らの疑惑の目がなくなることはない。
そういう風に見られるのは構わないけどこのままだと彼を観察するということが出来なくなりそうで困る。折角見付けたんだからもう少し彼のことを知りたい。
「はじめの質問に答えろ。お前は何者だ?」
「私としたことが答え忘れていましたね。でも、知ってるんじゃないですか?」
赤ん坊を見る。
私をここに連れてくるまでの間に荷物の確認はしているはず。そこには私の名刺が入っていたから既に名前と職業は知っているだろう。この子が知りたいことは何一つ解らないけど。
「プログラマーをやってる伊達有無です。他に肩書きがあるとすれば元サイバーテロリストってところですかね」
テロリストという言葉に反応したのだろうか。小動物くんが固い表情で生唾を飲み込んでいた。サイバーって言ってるのに。
「一年くらい前の話なんですけどもう記憶に薄いですかね」
「まさか、あのサイバーテロ集団か?」
思い出したかのように赤ん坊が口を開いた。肯定の意味の笑みを返す。
「これで最初の問いに答えたことにはなりましたか?」
「まあな」
まだ何か引っ掛かっているのか顎に手を添えながら答える。赤ん坊だというのに妙にそのポーズが似合っている。
「おい、有無」
「まだ聞きたいことでも?」
「マフィアに入れ」
非難と驚きの声が上がる。病室なのだから静かにすべきだとは思うが予想外の言葉に私も動揺してしまった。
←