茂みの中を歩いていると六道骸を見付けた。私に最初に見せた人のいい笑みを浮かべている。あれで人の警戒心が解けると思っているのだったらとんだ勘違いだと教えてあげた方がいいかもしれない。あともう一人、写真でも見たことのない少年が居る。後ろ姿しか見えないけれど小動物のようだと思った。六道骸に怯えるように後ずさっている。あんまり後ろにこられると鉢合わせしそうだ。
 何か言葉を交わしてたみたいだけどこの距離からは聞こえない。そして、私服の少年は青い顔で逃げ出した。でも、なんであんな子がこんな処に来てたんだろうか。
 疑問に思いながらも彼を見送り、そして茂みの中から出た。


「さっきはどうも」


 六道くんに挨拶をする。彼の隣には私とは反対の茂みから出てきた柿本千種が居る。


「あの悪夢から抜け出してきたんですか。やはりあなたは興味深いですね」

「私はもう貴方に興味はありません。あんなのが悪夢だっていうなら今居る世界が地獄になってしまいますよ」

「骸様、こいつは?」


 敵意を隠すことなく私に向けてくる。しかし、前に出ようとした柿本千種を六道くんが止めた。


「やめなさい、千種。あなたじゃ敵いませんよ」

「過大評価ですよ」

「そうでしょうか」


 全然駄目とか思っちゃったけど、全然は取り消した方がいいかもしれない。
 それにしても色々見透かされてるような気がして彼の目は少し苦手だ。さっきの幻も何故あの二人を出せたんだろう。彼が私のことを知っているとも思えないし、あの赤い目で何か見えるのかもしれない。
 でも、彼に関わるのはここまでだ。もう見切りはつけた。それに、面白そうなものも見付けたし。


「貴方方の邪魔をするつもりはないんで安心して下さい。少し見学していくだけですから」

「そうですか。邪魔をしないというのならどうぞご自由に」

「……いいんですか、骸様」


 ほんの少しだけ驚いた様子で柿本くんが聞いたが、彼は笑みを浮かべたまま頷いた。
 私程度じゃ邪魔にすらならないと思ってるのか。なんにせよ私という存在が脅威ではないと判断したんだろうな。実際そうだから有難い。


「じゃあ、失礼します」


 彼等が面白い舞台を見せてくれることを祈ろう。
 私は私でさっきの少年を追わなくちゃ。どこまで逃げて行ってしまったんだろう。あんまり歩きまわるのは好きじゃないのに。
 生い茂る草木をき分けながら歩いていると轟音が聞こえてきた。なんの音だと首を傾げながら茂みから顔を出す。


「なんで裸……?」


 さっきの小動物のような少年がパンツ一枚という格好で立っていた。その近くには倒れている少年が二人とゴーグルをつけて美女と何故か赤ん坊が居た。そして、六道骸として写真に写っていたランチアという男。制服を着ているけどかなり無理があると思う。
 あの子、雰囲気が全然違う。
 六道くんと話していた時は弱々しく小さな少年に見えたのに、今の彼は違う。力強い目をしている。


「へぇ」


 重そうな鉄球をあの小柄な体格で軽々と投げ返している。
 まさかとは思ったけど彼もマフィアなのかもしれない。そして、理由は解らないけど六道くんは彼を狙っているのかもしれない。わざと制服を着て騒ぎを起こしていたのも彼を誘い出す為か。


「六道くんの目的がマフィアへの復讐だとしたら」


 あの少年のいるマフィアはかなり大きなもの。そして、彼自身もその組織の中で高い地位にいるということになる。
 面白い。予想以上に面白いことになってきた。あんな弱そうな子がどうしてマフィアに居るのか。それに、纏う空気が変わった理由も気になる。
 好奇心に背を押されるように彼等の会話が聞こえる距離まで近付く。勿論見つからないよう気配を消すのも忘れない。


「あんたは悪い人じゃない」


 押しつぶすように降ってきた鉄球の下から出てきた少年はランチアに向かってはっきりとそう言った。そして、ランチアの心を弱いとも。
 肉弾戦を得意としていたランチアとの正面からの殴り合い。それは一撃で決まった。あの小動物のような彼のパンチがランチアのみぞおちに見事に入った。




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