ごとり。
そんな音がして友の身体が地面に落ちた。生気のない濁った蒼が私を見る。でも、その瞳に私は映ってなどいない。彼女は最期の最後まで彼を見続けていた。彼だけを映していた。
身体の奥底から込み上げてくるものが抑えられずに身体が小刻みに震える。
「……ふふ。あははははははははははははははははははははは」
腹の底から笑いが出る。
これは悪夢のつもりなんだろうか? だとしたら、死線が見ている世界は、戯言遣いが破壊してきた世界は、人類最強が存在してきた世界は、殺人鬼が殺してきた世界は、私が逃げ続けている世界は一体何になる?
六道骸はこんなもので私の精神が折れるとでも思ったのか? だとしたらやっぱり彼は駄目だ。全然駄目だ。彼がどんな地獄を知っていようとも、どんな能力を持っていようとも彼女の足元にすら及ばない。
仕組みは解らないけれど《時宮》で同じようなものを見たことがある。全く持って面白くない。つまらない。
「『女王』が戯言遣いに殺されるだなんて最高じゃないですか。彼女は望んでいるもの。彼女が彼を選んだのは戯言遣いだけが彼女を嫌いになれるからなのに」
ああ、なんて夢見がいいのでしょう。夢で彼女に会えるのならどんな夢でも私は構わない。だってそのくらい愛しちゃっているのだから。
「さて、幻の戯言遣いさん」
口元が緩むのを抑えられない。
いっくん、私は貴方が大好きです。でも、貴方が言うように大嫌いでもあります。
だって、そうでしょう? 貴方が私から彼女を奪ったんだもの。
「死んで下さい」
全身に絡めた糸。それを引っ張る。
幻であっても本物の人間と変わらない感触。糸から伝わる肉の切れる振動。
ばらばらと崩れる戯言遣いの身体からは血は流れない。地面に落ちた瞬間、幻は消えていく。
「貴方のことは二番目に大好きですよ」
やっぱりほら、一番は『女王』ですから。
そう言って消えていく彼女の幻を見つめる。本物の彼女はもっと素敵なのに。
折角彼女から離れたというのにこんなものを見せられては本物の二人に会いたくなってしまう。いっくんは連絡をくれるだろうか。もし、連絡をくれたら大好きだと伝えよう。好きすぎて殺しちゃいたいくらいだと伝えてたら彼はやっぱり嫌そうな顔をするだろうか。それとも、逆に笑うだろうか。いや、それはないか。
なんにせよ、この茶番。
「愉快か不愉快かと聞かれたら私はどう答えるのしょう」
どちらでもいいか。結局は夢でしかないのだから。
目当てだった六道骸くんは期待はずれでしたし、この後どうしようか。このまま帰ってしまったらただの日帰り旅行になってしまう。
もう少し見ていましょうか。私にとってはどうでもいい人間でしたがポチくんのように彼に従う人間もいる。そんな彼がどんな結末をたどるのか、そしてそれに周りの人間はどう反応するのか。
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