結局昨日はメールなし、電話もなし。翌日の午後である今になって見ても美人くんから連絡はなかった。
(誕生日だし、何かお祝いしてくれるかなって思ったのにな)
特別なことはいらないから、せめてメールとかでもお祝いしてほしかった。過ぎ去ってしまった昨日を恨めしく思う。
放課後特有のざわめきを背後に校門を抜けてからも、頭の中はずっとそのことばかり。小さくため息なんかつきながら家の手前の角を曲がった時だった。

「凪!!」

じゃりっ、とホイールとアスファルトが擦れる音がして目の前に一台の自転車が止まった。

「……美人、くん?」
「よう、凪」

はあはあと荒い呼吸をしつつもかっこつけることは忘れない、不器用な私の彼氏が目の前に立っていた。
かなり走ってきたのかひたすら息を荒げる美人くんに、どうしてと疑問を零す。

「昨日、誕生日だっただろ。……だから来た」
「……なんで今日なの」
「昨日は放課後予定、あって」

でもいきなりでいいハプニングになっただろ。
そんなこと楽しそうに言われたら喜ぶしかなくなってしまうというのに。
自転車の前かごに入れられたリュックからおしゃれな小袋を取り出すと、無言で差し出す。

「開けていい?」
「おう」

何重ものかわいい梱包を一つ一つ丁寧に開いていく。現れた小さな箱の中にはお洒落な鍵穴をモチーフにした銀のネックレス。

「かわいい……」
「これとお揃いだからな」

ほら、と見せられた彼の首元には光を受けきらきらと光る同じく銀の、しかしこちらは鍵本体をモチーフにした少しかっこいい仕様ネックレス。

「鍵本体と鍵穴、両方で一つの鍵だから、俺らも二人一組な」

珍しく照れたように笑う彼に視線を奪われる。誕生日じゃないけど、今日は美人くんからたくさんのものを貰っている気がする。

「……ありがとう」
「どーいたしまして」

噛みしめるように言ったありがとうをキスが優しく掬い取る。幸せな、一瞬。
刺すための鍵穴がなければどうしようもない鍵のように、鍵がなければ意味のない鍵穴のように。そんなふうに二人がなれたなら。
それはとても、幸せだ。









*凪ちゃんお誕生日おめでとうございます!
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