肉人形飼育記録1

「カルトってさー。こういうタイプが好きなの?」
「いけない?」
「いけないなんて言ってないよ。お前が年上好みだなんて意外な事実だなと思ってさ」

長髪の青年が、得物である針を弄びながら興味なさげに呟く。
和装の少年は兄に視線を向けず、ベッドに転がる人物を見下ろしている。
黒ずくめの服。鼻から喉元を覆う髑髏のマスク。東洋人種らしい切れ長の瞼。色白の幼顔と成人にしては小さい体。その容姿は一見して未成年に見える一方、目の下の濃い隈のおかげで老けているようにも見え、肩につかない程度に伸びた髪は兄弟と同じ黒い直毛だが、外向きの癖があり四方八方に跳ね回っている。

「キルよりちょっと強いの入れといたから。言うなれば自我を保った生き人形だな。刺して間もないから生意気なこと言うだろうけど、何だかんだで逆らえないから気にしなくていいよ。針が馴染むにつれて段々おとなしくなる筈だからさ」
「うん」
兄の説明に生返事をしながら「生き人形」をじっと見つめ続ける少年。
おもむろに手を伸ばして、指先で頬に触れる。
肌理細やかな白い皮膚は意外に温かく陶器のように滑らかだ。死体のような冷たさを予想していただけに意外な感触である。
「可愛いね」
囁きかける声音は甘い。普段通りの、十歳の少年らしからぬ落ち着いた口調ではあるが、そこには隠しきれない熱っぽさが滲んでいる。
「生き人形」がうっすらと瞼を開く。細い目を眩しそうに瞬かせてから、訝しげな表情で周囲を見回す。
和装少年の姿を認めて何か言おうとした刹那、長髪青年と目が合って口を閉ざす。
そしてより一層怪訝な顔をして「コイツは誰だ?」と言わんばかりに兄弟の顔を見比べた。
「大丈夫だよフェイタン。この人はボクの兄さん」
「どうもはじめまして。カルトの兄です」
ほとんど同時に喋り出し、
(あっごめん。タイミング悪かった?)
と言わんばかりに無表情で顔を見合わせる二人。
どことなく滑稽な兄弟のやり取りを目にした「生き人形」はにこりともせず、一層困惑を深めた顔で眉間を寄せる。

「じゃあオレそろそろ行くから。一応じいちゃんと父さんには話通しとく」
「わかった。ありがとね」
「はは、いつもお前には我慢させてばかりだからね。日頃の感謝を込めて、兄さんからのささやかなプレゼントさ」
ひらりと手を振って部屋を出る兄。「生き人形」の肩を抱きながら見送る弟。
「そうそう、母さんには黙っておきなよ。多分バレたら面倒くさいから」
背中を向けたまま投げかける忠告。
ノブに手をかけたまま肩越しに振り返ると、青年は「じゃね」と言い残して去っていった。

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