二人色恋模様



『永遠の愛を、此処に誓います。』


煌めく星に、そんなことを言ったのはいつだったっけ。
本来は神の御前に誓うものだけど、星に誓った方が何だかいつまでも続きそうな気がして。


それは、近くにいながら互いの想いに気付かないでいた二人の、一つの誓い。



「リオ、丁度いい所に。この書類を纏めておいて下さい」

「あ、はい」


仕事に明け暮れるジェイドの幼なじみであるリオは今日も仕事を手伝わされている。昼食を持って来てはこうして仕事を手伝わされるのだ。言ってしまえば巻き添え。


「(時間が無いのは分かるけど、食事を摂らないのも如何なものかと…)」

「…何か?」

「い、いやいや何でもない…」


焦点は定まっていなかったが無意識の内にジェイドを見ていたようでとても訝しんだ目で見られた。


「あ、もしかして怒ってます?」

「…一体何に」

「わざわざ来てもらったのに仕事を手伝わせてしまったことに対して」

「そんなことで怒るような狭い心なんて持ってませんー」


貴方じゃあるまいし、と憎まれ口を叩けば仕返しと言わんばかりに小突かれ、厭味で返された。


「折角お昼ご飯持ってきたのに。ジェイドの分も私が貰っちゃうから」

「すみません、嘘です」


没収の素振りを見せるとすぐに掌を返す。長年の付き合いだ、これくらい日常茶飯事。
そして渡した後に余計な一言を吐かれる。


「そんなに食べたら、まず太りますね」

「もうお昼ご飯持って来てあげないから」

「本気にしないで下さいよ。冗談です」

「次言ったら温厚な私でも怒るよ」

「肝に命じておきます」


苦笑から微笑へ。微笑から哄笑へ。失笑な空気に包まれた執務室の笑い声は暫くの間絶えることはなかった。通り掛かった兵士も思わず肩を震わせる程だったとか。


「はい、ホットミルクです」

「んー!やっぱり寒い日はコーヒーよりホットミルクが一番」

「単に苦さが嫌いならミルクや砂糖で消せばいいと思いますがね」

「私はコーヒー自体が嫌いなの」


笑い声も収まり、元の静けさを取り戻した頃にホットミルクを手渡した。自身はコーヒーを啜る。


「随分幸せに満ちた顔をしてらっしゃる」

「いやだって幸せなんだもん」


マグカップを両手で包み込むようにして持ちながら薄く色付いた頬を緩ませた。


「リオの幸せはいつだって些細なことですね」

「幸せ、なんて小さいことの繰り返しみたいなものよ」

「そうですか?貴女ならもっと大きな幸せを望んでそうですが?」


ジェイドの言葉に返す言葉を見付けられないでいるリオ。あまりに的を射た言葉故に返事が無いのだ。


そりゃあ、私だって幸せになりたいけど…ジェイドは私をそういう対象として見ていないから。


「こつこつやるのが重要なんだって」

「殊勝ですね、偉い偉い」

「ちょっ、子供扱いしないでよ!」


頭を撫で、子供扱いするジェイドに怒るはするが、その手を払い落とすことはしない。これも所謂慣れの賜物。


「いい加減徹夜しないで休みなよ」


午後5時を回った頃、反論を許さずして彼女は執務室を出て行った。


「…休ませてほしいものですね」


出来るものなら。
慌ただしく出て行ったリオの背を見送り、そうごちた。
そしてまたコーヒーを口に含む。何だか今日はやけに苦い気がした。


仕事の関係でまた暫く会えない日が続く。自身の想いを知りながら互いの想いに気付かない二人は今日も擦れ違う日々を送る。


――言いたい。


――しかし、言えない。


心にぽっかり穴が開いたような錯覚に襲われ、不意に、窓を見た。

紺碧の空に点々と広がり存在を主張する数多の星。一瞬、ほんの一瞬だけ愛しい人が見えた。
それを皮切りに慌ただしく廊下を、街路を、ひた走る。




「…ジェイド」

「おや、独り言で呟く程恋しかったですか?」


びくっ、とリオの身体が跳ねる。恐る恐る向けられた目には驚愕の色がありありと浮かんでいる。


「あ、いやっ、その、ジェイド何してるかなーって…」

「貴女の脳内を私が支配していた訳ですね」


あ、墓穴を掘った。
至極愉しそうな顔に冷や汗たらり。じりじりと少しずつ距離を詰めてくる彼に平生以上の鬼畜さを感じた。


「私も、リオと似たようなものですが」


顎をリオの頭に乗せて上から湯気立つカップを手渡す。


「リオは私を如何お想いで?」

「如何ってそれは…好き、だよ?」


唐突に聞かれた質問に不覚にも顔を熱くする。その返答でまた更に顔のみならず体温までも上昇。


「フフ、やはり私達は似た者同士のようです」

「そりゃあ、幼なじみだもの」

「お互いがお互いにとって近すぎる存在だからこそ、みたいですね」

「…そうだね」


二人は不意に窓の外を、紺碧の空を見上げて声を揃えた。


『永遠の愛を、此処に誓います。』


それは、近くにいながら互いの想いに気付かないでいた二人の、一つの約束。


それはまるで、ホットミルクのような、甘い甘い――



End.
10/03/20
▽後書き
ジェイドの甘夢、ということで如何だったでしょうか?
甘い話ってあまり書かないというより書けないので…ちゃんとご希望通りになっているか心配で堪りません;;
苦情、書き直し要請は永遠に受け付けておりますので遠慮なくどうぞ^^
この度は相互リンク並びにリクエストありがとうございました!



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