狂気之愛情也。



――何故、こんなことになってしまったのだろう。


冷たい鎖に触れながら考える。
いつの間にか情報を抜き取られ、勝手に製作された劣化品<レプリカ>。日だまりを奪う為に私を殺しに来たのではなく、それどころか彼は自分に恋慕を抱いていると言った。


――何故、


頭を持ち上げて見据える。
彼は嬉々と笑いながら私を見ていた。



私のレプリカ、つまり彼と会ったのは2週間程前。製造日は恐らくそれとさほど変わらないだろう。


「初めまして、オリジナル」


そう声を掛けられた。
自分のレプリカだろうが誰のレプリカだろうが興味の無い私は返事を返すことなく彼の横を通り過ぎ、何事も無かったようにその場を去った。

それから二、三日後執務室に製造主が自らの製造物を携え、やってきた。


「どうですか、ジェイド。自分と同じ物体を見て」

「私と同じ?冗談は顔だけにして下さい。レプリカなど所詮は劣化品に過ぎない」

「劣化品ではありません。何せこの華麗なる薔薇のディスト様が腕に縒を掛けて…って何処へ行くつもりですか!?」


ディストの長ったらしい自慢話を聞きたくもないと言わんばかりに執務室を出ようとドアノブに手を掛ける。


「貴方に構っている暇なんて無いんですよ。あの馬鹿皇帝が増やしてくれたお陰で仕事が溜まっているのですから」

「ピオニーなんて放って置けばいいじゃないですか!アイツさえいなければ私達はずっとネビリム先生を…」

「ディスト!いつまでも未練がましいですよ。先生は死に、もう永遠に蘇ることは無い」


ディストに目を向けた際にその斜め後ろに立っているレプリカが視界に入った。笑みを宿したその薄い唇がどす黒い何かに歪んでいたことが、酷く鮮明に残っている。


「とにかく、そのレプリカを連れて帰りなさい」

「私は帰りません」


反論したのはレプリカの方で。


「私は帰りません」

「一応理由を問うておきましょうか?」

「オリジナルが、気に入ったので」


そう言って、一際狂気に満ちた笑みを作った。


――そう、今と同じように。


「…レプリカ風情が」


人を捕らえ監禁するなんて感情欠落以外の何物でもない。やはりレプリカなど所詮劣化品に過ぎないのだ。


「これはある種の恋愛感情、にでも値するのでしょうね」


感情欠落を起こすような劣化品に恋愛感情など存在するものか。その欠落の所為で、ピオニーが…。
今も尚床に転がったままの無残な姿に吐き気と涙が込み上げる。

被験体の哀感とは対称に模造品の顔には愉悦。それはもうお互い狂う程に。


「さあ、もっとその苦痛に歪む顔を見せて下さい――ジェイド」


このあまりにも幼い狂気に、あまりにも純粋な負の感情に、為す術も無く全てを呑まれてしまうのだろうか。

拒絶の言葉が出ない。既に呑まれつつある?そんな馬鹿な。

だが、もしそうならそれも丁度良いのかもしれない。ピオニーがいなくなった今、ピオニーの元へ逝けるのなら――


「貴方を皇帝の元へなんて逝かせる訳が無いでしょう。貴方は私と永遠に共にあるのですから」



絶望の果てに、何があるのか。そこに宴の終焉など在りはしない。

ただ在るとすれば、それは――

狂気と名の付く愛情表現。



end.
10/02/02
▽後書き
はい、「其愛情、狂気也。」をジェイド視点で書いてみました。途中はしょり過ぎってくらいはしょって…相変わらず意味不明な文章が出来ました(ダメだろ
こんなのでも喜んで頂ければ幸いです。あ、こちらも勿論御一報下されば書き直しますので遠慮無くどうぞ!



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