其愛情、狂気也。



暗い部屋に硬質な靴音が響く。それは部屋の中心に鎖で繋がれた男が一人。自分と同じ顔を持つ彼、ジェイド・カーティスは恨めしそうに顔を上げる。


「…今すぐにこの鎖を解きなさい」

「お断りします」


睨みを即座に切り捨て、裏腹に緩慢な動作で顎に指を掛ける。


「どういうつもりですか?」

「さあ、どういうつもりでしょう」

「…レプリカ風情が」


拘束の意図を質した所で答えは返って来ない。そればかりか確実に苛立ちを植え付けてくる。その苛立ちを態々口に出してやれば平手が飛び、頬が朱く染まる。


「今の貴方は、嫌悪するレプリカにさえも劣るということを忘れないで頂きたい」

「何を馬鹿気たことを。私がお前のような劣化品に劣る訳が無い」


確かに自分は劣化品だ。だがそんなことはこの際どうだっていい。彼の、被験者<オリジナル>の顔が酷く気に食わない。拘束されても尚光る嘲笑につくづく腹が立つ。


「この状況下で、どう足掻いても被験者に勝ち目は無い」

「だからお前は劣化品――」


容赦なく腹を蹴り上げ、言葉を遮った。血を吐き、悶えるジェイドを彼はせせら笑う。鋭く光る視線に快楽混じりの寒気が背筋を駆ける。


「ゲホッ、カハッ…」

「貴方はそうやって地に這い蹲っているのがお似合いなんです」

「せ、いなる…いし、よ…、われにあだ、なすてきを――」


切れ切れの息で詠唱を始めた口を強引に己のそれで塞ぎ、舌を捩込んだ。


「ん、ふ…ぁ…ぷはっ、何を…」


散々口腔を蹂躙し、惜し気に口を離すと酸欠の所為か少し潤んだ目で見上げる。態勢が態勢故に上目遣いになる視線は彼の精神を掻き乱すのに充分過ぎる程で。


「何故貴方は――」

「…エナジーブラスト!」


それが油断を生み、ジェイド作り出した音素の塊が容赦なく彼を吹き飛ばした。


「詰めが甘い所は造り主にそっくりだ」

「…私をあんな蜥蜴と一緒にしないで下さい」

「かつてない程よく似て…」


一言交わして二言目が出た刹那、ジェイドの顔や胸に幾つもの細い傷が出来る。彼の鞭が撓ったのだと理解するまでやや暫く掛かった。


「それ以上言わない方が身の為ですよ?」

「この私に脅しを掛けますか」

「貴方を見ていると、どうにも我慢出来なくなる」

「…何を、とでも聞いておきましょうか」

「これはある種の恋愛感情、にでも値するのでしょうね」


歪んだ顔が映る。愉悦に埋もれた狂気を、垣間見た気がした。
あまりに幼い狂気。しかし幼さ故余計に質の悪いそれ。


「ああ、そうだ。貴方にプレゼントを持ってきたんです」


先程の冷たい声から一転、陽気な声が響く。壁に凭れ掛けるように置いてあったらしい袋を持ち出し、口を開けた。その直後に噎せ返るような血の臭いが嗅覚を壊さんとする勢いで襲い来る。


「被験者の為だけに用意したんですから、受け取ってくれますよね?」


嫌な予感がする。心臓が煩く脈打って体温を上げる。それとは対称に体の内側がどんどん冷めていく。


「きっと貴方も喜んでくれる――」


袋から取り出したもの、それは――マルクト帝国皇帝陛下の、首。


「ピオ、ニー…――」

「ほら、被験者の大好きな皇帝ですよ」


瞳に大きく映し出された見るも無残なその姿に、声にならぬ叫びが体中を駆け巡った。頭が機能しない。視界がぼやける。心が暗澹に呑まれていく錯覚さえ覚える。


「さあ、もっとその苦痛に歪む顔を見せて下さい――ジェイド」


貴方の大切なモノを全て壊してしまおう。貴方のその真っ赤な双眸に、永遠に私が映るように。


だって貴方は――


私をこの世に繋ぎ留める唯一無二の楔なのだから。


End.
10/01/08
▽後書き
PJかJJの狂愛ということで、JJで書かせて頂きました!
JJと言うよりはPJ←Jな感じが否めない;;…あ、書き直し要請はいつまでも受け付けますのでご遠慮なくどうぞ!
灰色様、この度は相互リンクして頂き誠にありがとうございました!そしてこれからも末永くお付き合い下さると感佩です。



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