多分、現。



「ピオへーか!」


扉に目を向けるとぱたぱたと走り、無遠慮に抱き着いてくる少女がいた。ピオニーは彼女を抱きしめ返してほお擦る。


「何か面白いことでもあったか?」

「うん!メイドさんがね、好きなものにはキスをしなさいって教えてくれたの!」


顔を離しピオニーの頬にちゅっと音を立ててキスをする。


「そうかそうか」


メイド達に感謝しつつピオニーもレインにキスを返し、またほお擦りを始める。


「やっぱりレインは俺の娘にするべきだったなー」

「ピオへーかがお父さん?」

「そうだったら良かったな」


やけに上機嫌な言葉を聞きながらお父さん…と小さく呟くレイン。そして嬉しくなったのかえへへと照れ笑いを漏らす。

「おやレイン、こんな所にいたんですか」

「ジェイドさん!」

「おー、ジェイド。どうした?」

「どうしたじゃないです、レインと遊ぶ前に仕事をなさいとあれだけ言ったというのに貴方は…」


次々と吐き出される言葉に冷汗がたらり。逃避は許されることなく2時間に渡る長い説教を聞く羽目となった。手持ち無沙汰になったレインはブウサギ達の行動観察をしながら時間を潰した。


「貴方という人は…ピオニー、そのキスマークは何だ?」


説教の真っ只中、ピオニーの頬にあるキスマークを見るや否や敬語が消える。


「…仕事もせずに遊びほうけるとは、いい気なものだな、ピオニー」

「ジェイド落ち着け!これはさっきレインが「言い訳なんて要らない。天光満つる所我は在り、黄泉の門開く所に汝在り」


秘奥義の詠唱を開始したジェイドを見て慌てふためくピオニー。レインの安全確保をと彼女を捜せば既に扉の向こうへ出て行った後。


「――インディグネイション!」


安心したのも束の間、天井を突き破り頭上へ雷が降り注ぐ。その他周囲の人間は触らぬ神に祟り無しと言わんばかりに速やかにその場から遠ざかってしまったのでピオニーの安否を気に掛ける者などいない。この国の最高位にも拘わらず誰にも安否を心配されないというのは何とも哀れである。


「…私が愛している人間は貴方だけなんですよ…?ピオニー」


今にも泣きそうな切ない声でぽそりと零す。堆い瓦礫に埋もれながらその言葉を聞いたピオニーは、


「知ってる、俺だってお前しか見えてない」


人間とは思えない速さで這い出てジェイドを抱き、赤子をあやすように背中を優しく叩いた。


「ピオニー…」

「何だ、俺のジェイド」


耳元で囁けば甘い声が漏れる。
こうして彼らがいちゃいちゃしている最中レインはというと、


「ねー、アスランさん」

「何でしょう?」

「男の人どうしってけっこんできるの?」


ブハッ。
突然そんなことを聞かれ紅茶を吹き出し盛大に噎せる。


「だいじょーぶ?」


フリングスの様子を心配そうに見つめているとすぐに声が返ってきた。


「…大丈夫ですよ、ご心配をおかけしました」

「うん」


ほんわかした笑顔に癒されるが先程の言葉がどうも気になる。
11歳の子供がそんなこと聞くなど…と心中穏やかでないフリングスであった。


「一応結婚は出来ますよ。そういったことを禁止する決まりは作られてないですから」

「じゃあピオへーかとジェイドさんもけっこんできるね!」


ただ今までに事例が無かっただけなのだが…。
自分の言ったことに早くも後悔し、眼前で笑う少女が酷く恐ろしい存在に見え始めてきた。


「…ところでレイン、陛下と大佐は何処で何を?」

「へーかのお部屋にいたよ。さっきばくはつしてた」


ブハッ。
下品だとは思いつつも再び吹き出さずにはいられなかった。
ピオニーとジェイドが一緒にいるのはいいとして、問題はその後だ。皇帝の私室が爆発したとなればまた厄介なことに。


「また大佐の譜術ですか…」

「ジェイドさんのふじゅつはすごいねー」

「…伊達に死霊使い<ネクロマンサー>と呼ばれている訳ではないですからね、彼も」


長い長い溜息を吐いて不本意ながら彼らの様子を見に行くとする。


「レインもいっしょに行く!」

「まあ、貴女なら連れて行っても問題無いでしょう、多分…」


痛み出した胃を押さえ部屋のドアをノックすると返事は返って来なかったので外から声を掛ける。


「部屋の修理費用はご自分で出してもらいますからね」


それだけ言って去っていくフリングスを見送り、そのドアを開けた。


「先程はみっともない所を見せてしまいましたね」

「ピオへーかとのお話おわった?」

「ええ、今さっき」

「じゃあ帰ろ、お父さん」

「はい、レイン」


存在を確かめるようにレインを抱きしめ、ほお擦るジェイド。抱きしめられた方も擽った気に身をよじる。

態度と雰囲気の変わり様に首を傾げた。


あの喧嘩は、


夢か現か。
(けんかりょーせーばいなんだよ、2人とも)

end.
09/10/4

>>おまけ。

「おやレイン、その口紅は?」

「メイドさんが塗ってくれたの。それでね、大切なものにはキスをしなさいって教えてくれたんだよ!」

「…、………そ、そうですか」


――陛下には、悪い事をしてしまいましたね…。後で謝りに行かねばなりませんね。


▽後書き
ピオジェ+過去主、ということで眞柚様、如何だったでしょうか?
……ちゃんとピオジェになってるかが心配でなりません。これじゃただのバカップル…;(死
苦情や書き直し要請などありましたら遠慮なくぶつけてやって下さいませ。
この度は相互リンクして下さってありがとうございました!


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