一等星




――ピオニーside.


俺がいくらアプローチをしても、お前はいつも振り向いてもくれない。
例えるならば空に流れる光のように。


「俺と結婚しろ」

「馬鹿なことをおっしゃる前に眼前の仕事を片付けたら如何ですか?」

「ゔっ…」


的確過ぎる言葉を言われて思わず詰まる。


「皇帝命令だー!」


駄々を捏ね、あまつさえ職権濫用を始めた皇帝ピオニーを冷めた視線で一喝。


「結婚をお考えならその堕落的な性格を矯正なさってからにして下さい」


彼女が堅物なのは此処へ来た時から全く変わりない。


「そういえば陛下、また国家予算で変なものを作ったと報告があったのですが」


ぎくっと肩を跳ね上げると、一目散に逃げた。


つもりだった。


「逃がしません」


リオがいなければ完璧に逃げ切れた筈だ。そう、リオがいなければ。


「国家予算を私欲に使うなとあれだけ言ってもわかりませんか、そうですか。分かりました、こうなってしまった以上仕付けきれなかった私にも責任があります。ですので、今日は寝かせませんから覚悟しておいて下さいね?」

「今日のリオはいやに積極的だな!」


説教されているにも拘わらず、子供のように瞳を輝かせるピオニーがいる。


「だって寝ないでやることっつったらアレしかねぇだろ!」


しばしの沈黙と共に絶対零度の暴風が吹き荒れる。
そしてピオニーの頬には真赤な紅葉がド派手に一枚。



――ジェイドside.


貴女に愛を語っても、貴女はいつだって見て見ぬフリをする。
まるで貴女は遠すぎる光のようで。


「これで最後です」

「お疲れ様です。これから食事でもどうですか?」

「結構です。私にはまだやるべき仕事が残っていますので」


そうですか、と残念そうに溜息を吐く。


「リオ、これで25回目です。一度くらい誘いに乗ってくれてもいいじゃないですか」

「生憎と私は暇じゃないので。食事なら陛下と一緒に行けばいいではないですか。あの方は暇を持て余しているようですし」


笑ってしまうほどきっぱり断られ、吐き出す術を奪われた言葉は喉の奥を彷徨ってそのまま霧散した。


「では、結婚しましょう」


いきなりのプロポーズに慌てることも驚くこともせず冷めた視線で一蹴。


「結婚をお考えならその鬼畜的な性格を矯正なさってからにして下さい」


何処かで聞き覚えのある台詞を聞いて声を失うジェイド。
そして畳み掛けるかのように一言。


「いっそ陰険眼鏡も直したら如何かと」

「………眼鏡はどうしろと」


もう此処は笑うしかないと開き直りを込めた微笑を浮かべる。

軍部内で“堅物副官”の異名を誇るリオを誰が落とすかという話題で持ち切られ、賭をする者まで現れる始末。有力候補は皇帝と上司の2人だけ。他は全員範囲外。




「「リオ!」」


明くる日、彼らは騒々しくいきなり私室に現れた。

「お前が好きだ」

「貴女を愛しています」


差し伸ばされた2つの手を選ぶこともしなければ取ることもしない。
リオはただふっと悲しげに笑うだけ。


人間の手など哀しい程に短く、空に煌めく星には届きはしない。
(高嶺の花など比ではない。)


END.
▽後書き

『ピオ→夢主←ジェでオチ無し』 ということで両者をフッてみました。
苦情と書き直し要請はいつでもお申し付け下さって結構です。
あおい様、この度はリクエストして下さってありがとうございました!



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