たとえこの願いが叶う日は来ずとも、私は願い続ける。
ND2019
キムラスカ・ランバルディアの陣営はルグニカ平野を北上するだろう。
軍は近隣の村を蹂躙し、要塞の都市を囲む。
やがて半月を要してこれを陥落したキムラスカ軍は玉座を最後の皇帝の血で汚し、高々と勝利の雄叫びをあげるだろう。
冷酷に告げられた秘預言<クローズドスコア>。
それを素直に受け入れられるマルクトの人間がいるならば、教えてほしいものだ。
けれども彼は笑う。そんなものなんて覆せると信じて疑わなかった。
そう、最後の最期まで。
“なあ、ジェイド”
“俺は絶対死なない。”
“約束する。この国に誓って。”
そう言って笑ったのは何時の事だったでしょうね。
約束を破るのは何時だってお前の方だと怒っていたのに、いざ自分の番になるとこんなにも呆気なく約束を破るなんて。
私に死ぬなと誓わせておいて、貴方は私を置いて逝ってしまった。
貴方を理由に生きてきた私に、一体如何しろと仰るのですか?
ねぇ、陛下―――
緑の導師がこの国に来訪したのはおよそ三か月前。
淡々とした顔つきで陛下に秘預言を告げ、酷く驚かせていた事をよく覚えている。
しかし聞いた直後はただ純粋に驚いただけで他には何も無かった。問題はその後だ。
「ジェイド。おい、ジェイド」
「何ですか。私には如何にも出来ませんよ」
「お前な、端から諦めんなよ」
「これが預言じゃなければ私だって抗いますよ。預言じゃなければね」
預言というものには逆らえないと自分自身の精神に根付いている。いや、寧ろ預言に逆らうべきではないと精神が基づいているのだ。
「確かに預言に逆らうべきでないが、滅びの預言を詠まれちまったら逆らうしかねぇだろ」
「ユリアが遺した預言は百発百中の確率を誇ります。そう簡単に覆せるとは思えませんが?」
「んー、そうだな…」
「国外逃亡が一番確実だとは思いますが」
「俺に国を捨てて逃げるなんて真似、出来ると思うか?」
鋭い蒼を向ける。
自分を射殺さんばかりの鋭利さに思わず息を呑んだ。
彼がどんなに国を愛しているかは知っていた。しかし命を落としても守るものだとは、自分には予測出来なかった。
「私にとってこの国よりも、貴方の命の方が大事なんです」
「それでも俺にとってはこの国が何よりも大事だ」
「そうですか…」
「もう二度と俺の前で国を捨てろなんて言うな」
それでも、貴方が死んだら意味が無いじゃないですか。
国を捨ててでも陛下には生きていてもらいたいと思うのは、我が儘ですか?
「そんな顔するな。この国が滅ぶまでは俺は死なない」
「…陛下が死んだらこの国も滅ぶんですよ?」
「うん、知ってる」
「全く…」
この頃なら、まだ笑っていられた。
否、本当はいつまでも笑っていられる筈だったのだ。彼と共に。それなのに、運命というものは何と残酷なのだろう。
戦争が原因なのか、国が原因なのか。はたまた星の記憶が原因なのか。
何が原因かなんて、分かりはしない。そもそも原因はどうだっていい。
ああ、陛下を奪った世界が憎い。陛下を磔にしたこの国が憎い。
鳴り止まない復讐心は、更なる悲劇を生む。
そして彼は一つ、この憎い星に願いを投げ掛けた。
ND2020
要塞の街はうずたかく死体が積まれ、死臭と疫病に包まれる。
ここで発生する病は新たな毒を生み、人々はことごとく死に至るだろう。
これこそがマルクトの最後なり。
以後数十年に渡り、栄光に包まれるキムラスカであるが、マルクトの病は勢いを増し、やがて一人の男によって国内に持ち込まれるだろう。
滅びという名の希望を。
End.
10/07/06
▽後書き
遅くなりまして申し訳ありませんでしたーっ!(土下座
リクエストもらってから一ヶ月以上経ってますすみません;;遅筆な私を許して下さい。
さて、PJでピオニー死ネタかジェイド片想いかということでピオニー死ネタを取り、秘預言成就パロにしてみました。当初は片想いで行こうかなどと試行錯誤している内に比較的書き易かった秘預言に落ち着きました。
苦情などあれば、甘んじて受けます。遠慮無くどうぞ。
アッコさま、この度はキリ番リクエストありがとうございました!
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