無と、虚と、空の織り成す旋律。
「人間は何故産まれ、」
「…何故、生き…」
「何故死に逝くのだろう」
いくら探しても、その答えは未だ闇の中。
此処が何処であるか、なんて知らない。どうでもいい。
ただ、暗い暗い絶望に似た闇の中であることは視覚からの情報伝達で理解した。
『あの二人を暗殺せよ』
低い、ドスの利いた声が脳内で反響する。たった一つの命令が彼を、そしてその二つの命を左右するのだ。
【死霊使いの鏡】
無情に殺人を重ねる彼に付けられた二つ名はその力を表現するに相応しいものであった。
「わたしは、レプリカ…ですから」
色を持たない瞳はただただ空<クウ>を見詰める。空<クウ>の中に在るのは黒い二つの陽だまり。
ジェイル、と名の付く彼は狩る為だけに彼女らにピントを合わせる。
血と闇のオッドアイを持つ少女と闇を重ね着する少女。どちらも少女、とは言い難い風貌の持ち主だがそんなことはこの際どうでもいい。
「わたしは、あなたたちを…殺しに…来ました」
「何の為に、」
血と闇の少女、新原 流歌が吐き捨てるように理由を質す。
「…命令、です」
「お前はたった一つの命令の為に多くの人間を殺すのか?」
闇を着る少女、サイラス・プリズナーは流歌に続き質問を重ねる。
「それが、命令…なら」
「命令、な。くだらねぇ」
「命令だから…あなたたちを、殺さなければなら、ない」
虚ろな目とは裏腹に武器を持つ手はやけにしっかりしていた。
流歌とサイラスは思わず舌打ちする。
「自意識が無い、ってのもまためんどくせぇな…」
「これだから刷り込みレプリカは嫌いなんだ」
「あなたたちが如何、思っても…わたしには、関係ない…」
金属同士がぶつかり合い、耳障りな音を立てる。
それを気に留めることなく連続して鎌を振り下ろす。
「う、…」
緩く曲線を描く刃がサイラスの手の甲を掻き、対称的な柄が剣を払った。
「…まずは、一人…」
「させるか!」
ジェイルとサイラスの間に流歌が割って入り、鎌を受け流した。しかし、窮地なのには変わり無い。
「流歌!油断するな!」
一瞬の隙を衝いた攻撃が流歌を弾き飛ばす。弾き飛んだ彼女は木に背中を強打する。
「…ジェイル、とか言ったな。自我を通そうとは思わないのか?」
「わたしに…自我、なんていうものは、ありません…」
「…血なんて浴びずに、太陽みたいな主人に仕えるのも、悪くないぞ」
背後を見せた、ということは死を覚悟したということで、戦場においては最も愚かな行為。
ジェイルがそれを見逃す筈もなく、大鎌を振った。紅い鮮血が手や顔を、そして視界までもを染め上げる。
「…なぁ、お前は今、…幸せか?」
「幸せなど、いら、ない…」
「それが、お前の答え…か…」
溜息にも似た深い息を吐いて薄く笑い、倒れている流歌を見遣る。
「流歌だけは、助けてやって…くれよ」
「何故、」
「友達は、庇うものだ、と思ってるから…」
「わたしは…」
「…いつか、いつか絶対お前の幸せを…願う誰かが現れる…。それまでは…――」
血に濡れた微笑は消えぬまま、動かなくなったサイラスを一瞥すると、流歌に視線を向け、ゆっくり歩み寄る。
「…殺るなら、とっと殺れよ。俺はもたもたされるのが嫌いなんだよ」
「あなたも、同じですか…?」
「さぁな。俺は容易に人間なんて信じたりしねぇから」
「…そう、ですか」
大鎌を手の周囲に戻し、近付く足を遠ざけた。
「幸せ…って、何ですか…?」
「…それが分かれば誰も苦労しない。ただ、言えるのは――」
もう永久に動かないサイラスを傍目に冷たく熱い何かを胸に押し込み、目を閉じる。
――自分自身の陽だまりと、生まれた意味を知れ。
出生、生存、死去の意味を知ること。
きっとそれこそが幸せへの遠い近道也。
End.
10/06/12
▽後書き
遅くなりまして、誠に申し訳ありません!いくら土下座しても足りないくらいです…。
はい、「夢主とレプリカのコラボ」ということで麻月様宅の新原 流歌さんとジェイル・カーティス・ネフライトさん、そして当サイトのサイラスをコラボさせて頂きました。正直、こんなものが果たして相互御礼で良いのか…。苦情と書き直し要請は真摯に受け止めますので遠慮なく!
麻月 遊美様、この度は相互リンク及びリクエストありがとうございました!
※)追記
夢主二人の名前変換は遊美様にお任せします。
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