「ぅあ…、ぐ…」
「素直に出したいと言えばいいものを、強情は貴方の悪い癖だ。ねえ、被験体」
「黙、れ…出来損ないごと、きがっ…ひぁっ」
雑言を吐く口から度々嬌声が漏れる。その都度同じ顔した彼はニヤリと嘲笑にも似た笑みを浮かべては蔑んだ。
「絶頂の瞬間で、終わらせることも可能なんですよ?」
「お前になど、私は…殺せない」
「大した自信だ。その根拠は何処に有るのやら」
「お前に私は殺せない。それだけだ――」
ばしんっ。
頬を打つ乾いた音が重く広がる静寂を切り裂く。重い疼痛に迫られながらも全く顔に出さないジェイドに、苛立ちを覚える。隠し切れていないその表情にジェイドはせせら笑った。
「何もかも不完全なお前に何が出来る」
「…五月蝿いっ!」
「名前も無い、能力も劣化している、なんてただの出来損ないだ」
辛辣を重ねて狼狽した所をまんまと立場逆転し、優位に立つ。立場を返そうと躍起になっても相手が自分の被験体とあって気ばかりが焦り、何度も失敗に終わる。
「…油断をしているようでは私にはどう足掻いても勝てませんよ」
押し倒して磔にしていた体は一瞬の隙を突かれ、今は自分の上にいる。騎乗位が好きなのかと不意に馬鹿げたことを聞きたくなった。
「いつだって私はお前を消すことが出来る。今のように、ね」
「フ、アハハハハ!」
突如と声高に笑い出したレプリカに訝しむ目を向ける。
「ならば殺してみて下さいよ!こんな邪魔な生ならば、消えた方が良いのでしょう!?」
「感情も制御出来ないとは…」
「貴方と私、入れ代わったら…どうなると思います?」
首元に宛がわれる冷たい感触に思わず息を飲んだ。
「被験体の喉笛を切り裂いて、溢れる血糊で人生を描く…素敵じゃないですか?」
「私としては愚かな模造品の脳天かち割って脳髄を引き擦り出した方が面白いと思うがな」
悪趣味な事を言いながら互いに睨み合ったまま鼻で嘲笑。いくら脅しても動じないジェイドの屈強な姿勢に一瞬苛立つも、にやりと笑って、
「――さようなら、被験体」
ざくりと細い首筋を切り裂く感触に伴い、ぶしゃあと勢いよく湯水のような溢れる生温い液体。
五感全てから感じる歓喜に思わず笑い声を上げる。一頻り笑い終えた頃に息も絶え絶えに動きを見せなくなったジェイドの頬に触れてみた。
「苦しいですか?」
「…お前は、所詮…猿真似、しか出来、ない…――」
「黙れ!命燃え尽きた被験体になど何も言う資格は無い!」
「…じ、きに、分かる…永遠の、咎に…苛まれるが…いい…」
かく、と力が抜ける。再び見ることの無い灼眼、少々惜しいとは思いながらもその手を離す。
「永遠の咎、なんてものに興味は有りません」
ジェイドの言葉など気にも留めず、ジェイド・カーティスとして生き始めてから数日が経った。誰も自分を被験体だと疑わないし、気付いてもいない。
「陛下、好きです」
「俺が愛してるのはこの世でただ一人だ」
滝の音と重苦しく沈黙が支配するこの部屋で更に沈黙を誘発させる爆弾を投下する。
抱き着いたままのこの姿勢が何とも重い。
「俺のジェイドは――何処だ」
彼の視線が酷く冷たかったのはその所為か。それでも、白を切ってジェイドを演じ続ければ、
「レプリカなんていう偽物は要らない」
「陛下――」
襟首を掴まれ、息が詰まる。
やはりこの皇帝を欺くには無理があったのか。ならば、いっそのこと、
「もう一度聞く。ジェイドは何処だ」
「安心して下さい。すぐに会えますから」
青い軍服のポケットからべったりと血糊の付いたナイフを逆手に持ち、自分をも貫く勢いで背に突き立てた。
そうだ、ばれてしまう前に全てを塗り替えてしまえばいい。
側近達も、幹部達も、その辺の雑兵達さえも“模造品”にしてしまえばいい。被験体の遺したレプリカ、という技術で。
始めからそうすれば、二度手間にならずに済んだものを。
そう自嘲して、彼は何処となく浮ついた足取りで闇へと消える。
血の混ざったナイフを残して。
いつか本物になれるだなんて嘯いて、咎の意味さえも知らぬ幼子の逝く先は――
End.
10/05/23
▽後書き
JJ、傾向問わずということで書かせて頂きましたが何が何やらいつも以上に意味不明になってしまいました;;
本当にこれはJJなのかと言われそうな次元ですね…。
な、何はともあれ遅くなりましたが灰色様、4周年おめでとうございました!(ごまかした
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