堕世鎮魂歌



それはいつもと同じで、全く別の矛盾した日常。


カツカツカツ。
ブーツのヒールが硬質な床を幾度も叩く。腕から零れる程の紙束が歩く度にカサカサと音を立てた。


カツカツカツ…。
自分の足音に被さる微妙に違う音を聞いた。そして背後には微かだが人の気配。


「そこで何をしているんです、アゲート」

「…気付いていたのか」

「この私を狙う度胸ある不届き者は貴方しかいませんからね」

「それはけなしているのか?」

「いえいえとんでもない。褒め殺さんばかりに褒めちぎってますよ」


相変わらずの胡散臭い顔と白々しい言葉。何故こんな人間に会いに来てしまったのかと自分に聞きたくなる。尤も、適確な答えなど出ては来ないのだが。


被験者だから、なんていう簡単な答えなんかもう聞き飽きた。言い飽きた。何となくそれがただの言い訳な気がしてならなかったから。


「また私を殺しに来たんですか?…それにしては、隙が多いようですが…!?」

「誰が、隙が多いって?それはお前の方だろう」

「…ぐっ、」


若干上の空だったアゲートの背後を取ったは良いが、不意に腕を掴まれ、その場に引き倒された。身体の上にはアゲートが馬乗りになっている。
逃げるに逃げられない状態にありながらもジェイドは一瞬の内に不敵な笑みを繕う。


「油断なんて馬鹿な真似はしませんよ。これでも一応軍人なのでね」

「ならばジェイドはこの状況を打破出来るんだな?」

「そんなこと訳も無…ぐっ、ぅぁあっ!?」


アゲートにぶつける筈の挑発が悲鳴に変わる。一瞬、何が起こったのは分からなかった。

ブツリ、と皮膚に硬質な何かが刺さる音が聞こえたと思えば、皮膚裂いたそれで肉を刔られる。それらに伴って生温い液体が青の軍服を、青の床を赤に汚していく。


「気でも、触れましたか…?」

「こうしてお前を見下していると無性にお前の血を飲みたくなるんだ。…同じだろう、お前と。ああ、劣化したレプリカなんぞと一緒にされると反吐が出るか?」

「まさか滅相もない。アゲートは、優れたレプリカなのですから」


私の、ね。
にやりと笑う顔が愉悦に歪んでいたのが記憶に新しい。自分もそれに等しい顔を作っていたのだが。
同じ顔が二つ、至極歪んだ顔をして互いが互いを傷付ける。


「足元、ふらついてませんか?」


ジェイドの槍がアゲートの肩を貫く。
即座に引き抜いて、アゲートの肉体から血を吐かせる。


「ジェイドこそ顔色が悪いように見えるが?」


アゲートの鎌がジェイドの腹を裂く。
大振りのそれがジェイドの血を飲んで鈍い光を発する。


互いの武器が互いの肉体を抉っては多くの血液を吸った。
床に散った飛沫も二つの血が混じり合ってどちらのものかなど判別は付かない。
判別が付いた所で無意味、と一笑に伏す。


「楽しいですか?」

「ああ、愉しいさ。お前の血をこの身に浴びられるんだから」

「そうですか。では、―――さようなら」


眼鏡が逆光する。
何処か気味の悪さを醸しながら赤黒い刃と共に眼前の彼の血を浴びる。
腕、足、腹、胸、そして顔と次々に赤へ移ろう。
その様はまるでシャワーだ。罪を罪で洗い流すシャワー。


「は、綺麗ですよ…私の愛するレプリカ<アゲート>」


目の前に横たわるそれには既に色は無く。
死後硬直を始めた冷たい肉塊があるだけ。
ただそれが、無性に愛しく思えた。


嘯く彼の本音は何処。
其は色を失った屑石の笑みの中に。


足枷外して永久に続く狂宴へ。


End.
11/02/25
▽後書き
やっちまったァァアアア!
とか何とか叫んでいる私です。反省はしてます、でも後悔はしてません。
ま、まあこれはおまけ扱いということで。あくまでもおまけということでっ!(必死

アゲートさんとジェイドはこれくらいやってるのが美味しいと思いました。
結果、私得な内容ですみません。あ、土下座なら何度でもするんで!
むしろ土下座とか私の専売特許なんでえへへー(何
ではでは再々になりますが三周年おめでとうございました!


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