「JTって日本たばこ産業だよね」
「は?」
「いやだからJT」
「何処からJTが来たのか、私には全く読めないのですが?」
「JTっつったらアレだよ、アレェ」
「指示語を言われても答えになるような言葉は日本たばこ産業しかありませんでしたね」
「アレだ!アレッ!」
リオがアレを連呼し始めてからおよそ十分。
「だからアレとは何ですか」
「忘れた」
きっぱり。それはもういっそ清々しいと程、きっぱり言われてしまったジェイドは言葉を失う。彼女の吐く言葉全てが中身の無いものと知った瞬間だった。
「へーかー。ジェードに怒られたー」
「おーよしよし。アイツはツンデレおじさんだからな、一筋縄じゃいかねぇだろうな」
「どっちかって言うとジェイドはヤンデレだから大丈夫かなーなんて」
ピオニーにへばりついて頭を撫でてもらう。ジェイドに怒られた時や彼の機嫌が悪い時は基本的に此処を避難所にしているリオ。
その度にいつも臣下達に罵られるが、彼女は完全に無視を決め込んだ。
「そもそもの理由は何だったんだ?」
「JTの意味を忘れたって言ったら怒られた」
「…何でそこで日本たばこ産業が出てくんだよ」
「分かんない。で、JTって何?」
「俺が知るか!」
又してもぽーいと追い出されてしまった。これ以上他に避難所は無い。
はて、どうしたものか。
「あ、ガイ」
丁度良い所にブウサギの散歩から帰ってきたガイを発見。
ギクッ。ガイの身体が縦に跳ねたのを見た。
「ガーーイーーッ!」
「うぉぉおあぁー!寄るなぁあー!!」
「・ ・ ・ 。…チッ」
逃げられた。光の速さで逃げられた。
舌打ちをしても彼は帰って来ない。つまり折角見付けたと思った避難所さえも失ってしまったという訳だ。
もういっそ、諦めてしまおうか。
「僕に良い考えがあります。ちょっと耳貸して下さい」
ごにょごにょごーにょごにょ。
「…よし、やってみる!ありがとーイオンさまぁーー!」
突如生え出でたイオンに耳打ちされ、勢い良く走り去って行く。
イオンの黒い笑みを見た所、恐らく碌でもないことを吹き込んだのは明確。
「ジェイドお兄ちゃん、おかえり!」
「どうぞお帰り下さい。出口はあちらです寧ろ帰れ」
「ぶー、ジェイドは妹萌えだって聞いたから」
「…誰ですか、そんなデマを流した輩は」
「プライバシー保護の為、お教え出来ませーん」
手で×の字を表現するリオにはもはや溜息しか出ない。
いや寧ろ行動項目が溜息以外選択不可にされてしまったような気さえする。
「どうせそんな碌でもないことを考えそうな人くらい予測出来ますけどね」
「聞こえなーい言わなーい見なーい」
耳を塞ぎ、口を閉じ、布で目を隠す。そして更に音を遮断する為に屈み込む。
ジェイドからしてみれば、ボールとほぼ同じような大きさで背を向けられようものなら、蹴り飛ばしてやりたい衝動に駆られる。
「あ、そうだ!」
ゴツン。
リオが立ったことで、彼女のほぼ真上に頭があった彼。頭頂と額とがごっつんこ。痛い。とても痛い。それはそれは痛い。…ジェイドが。
「JTの意味が分かったよ!」
「…何で貴女は平気なんですか」
「え?あらー、どうしたのそのタンコブ」
ずきずきと痛む額を押さえながら説教モードに入ろうとしたその矢先、
「誕生日おめでとう、ジェイド!」
満面の笑みで両手を突き出される。その手の中心には小さくも大きくもない箱がちょこんと乗っていた。
「…何ですか?煽てても何も出ませんよ」
「リオちゃんからのささやかな贈呈品です」
「贈呈…商店街のくじ引きじゃないんですから…おや」
ぶつくさ文句を言いながらもリボンを解き、箱を開ければ明るい緑光を放つ翡翠のブレスレット。
「その石、ジェイドっていうんだよ。誕生日プレゼントには持って来いでしょ」
「…有り難く頂いておきますよ」
「うん?要らない?要らないなら返せ」
「嫌です。これは私が貰った物ですので」
リオをその場に置き去りにし、そそくさと消えたジェイドの白顔が、薄紅に色付いていたのは強ち気の所為でもない。
“幸運のお守り”に ただ“ありがとう”と 呟いて。
End.
10/11/17
ラッキーチャームジェイド。
うん、我ながら馬鹿みたいなネーミングセンスだ。
普通に上げるか配布にするか迷った挙句、結局フリー。
配布期限:〜11/30
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