Kの悲劇



「とりっく おあ とりーと!」


魔女の格好をしたレインがまず目に入った。
体の割には少し大きな魔女帽を頭に乗せたちんまりとした魔女は「とりっく おあ とりーと」と両手を広げて菓子をねだっている。


「はい、どーぞ」

「リオさんありがとー!」

「どう致しまして」


予め用意しておいた菓子を渡し、レインはパタパタと次のターゲットへと走っていく。

うん。とても無邪気だ。


「トリック オア トリート〜」


カボチャを被ったサイラスと目が合った。
やる気無さ気に菓子をくれと紫色したマントを身に纏ったカボチャは言う。


「もう少しやる気出そうよ、サイラス」

「んー、…頑張る」

「後で皆からどやされるよ」

「………おやすみ」

「お、おやすみ…」


渦巻き棒キャンディーを頭のカボチャに刺し、恐らく寝に帰るのであろうサイラスを見送る。遠ざかる背中を追っていると、バタリと倒れた彼女を、小さなお化けが一人後片付けをしているのを見た。

事後処理係も大変だね…。


「Trick or Treat」


黒い猫耳と尻尾を生やした葵に遭遇した。
貧乳な猫娘は強い口調で英語を口走る。


「随分頑張ったね、その衣装」

「Thank you」

「ほんと異国チックな猫娘」

「本当誰の所為だと思っているのよ、あの眼鏡。ねぇ、リオ」


異人さんもびっくりな発音の良さ。恐らく彼女は異国猫。
ぴょんと立った黒い尻尾は神経質さを表しているのだとリオは苦笑いを一つ。

前世は、なんて言ったら確実に怒られるわ。


「トリック アンド トリートメント」

脳天気な吸血鬼、ルビウスとぶつかった。
何故、お菓子をあげてもトリートメントをするのかを聞いてみる。


「姐さんがそう言ってた〜」

「多分フィーネさんが言っていたであろう言葉は『トリック オア トリート』だと…」

「あれ、姐さーん!何処、姐さーん!」


赤と黒のコントラストが非常に目に痛い吸血鬼は愛しのフィーネを捜してドタバタと走り去って行く。

きっとあのフィーネさんが馬鹿なことを教える訳がない。うん、きっと。


「…………」


不機嫌オーラが体の至る所から滲み出ているミイラと鉢合わせ。
不機嫌通り越してまた別な表情に見えてくる。


「あの、葉月さん?」

「何」

「包帯、絡まってません…?」


言われて気付いたのか包帯を直そうとこちゃこちゃと奮闘するも、逆にどんどん絡まっていく。そして終いには命にまで関わりそうな、


「………」

「ちょっと動かないで下さいね」


こくりと頷いたのを見て包帯に手を掛けた直後、同じ顔した陽斗が彼女を奪って、こう言い残しては物凄いスピードで消えた。


「困った時は言えってお兄ちゃんそう言ったよな!?」


……葉月さん、大丈夫かな。


「あれ、お菓子残ってる」


まあ、いいかと陽気にカボチャの入れ物に入った菓子を啄みながら、ハロウィン一色な街を歩いていると、


「お菓子をくれないと悪戯ですよ?リオ」


ビシリ。
リオの体が硬直し、石になる。

…そうだ、忘れてた。ヤバイ、どうしよう。


「その顔は忘れていたようですね。では遠慮なくさせて頂きましょうか、悪戯」


それはそれは至極楽しそうな笑顔。
リオにとってその顔はまるで、

悪魔の笑み。


End.
10/10/31
▽後書き
タイトルの「K」はカボチャのことです。
格好付ける為にアルファベットにしてみたというくだらなさ。
即席な部分があるので、配布には向かないのかなーと思いつつ、配布にしちゃう能天気さは私の長所。

配布期間は設けていないのでお好きな時にどうぞ。


[*前] | [次#]


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -