「ん?何をやってるんだ?」
「サイラスも手伝ってよ」
「それは良いが、何を?」
「飾り付け」
何を?
そう聞く前に理解した。百聞は一見に如かず。その古語を今正に体験した瞬間だった。
「どうせサイラスの事だから七夕も知らないとか言うんでしょ」
「んにゃ、七夕は知ってる」
シンクはサイラスが七夕を知っていることに驚いた。相変わらず失礼な少年だ。
「サイラスも、アリエッタと一緒に飾り付けしよう?」
「笹に飾り付けなんて必要無くない、か…?」
笹が視界に入る。
質素であるべき笹があろうことかごてごてしく飾り立てられている。例えるならば、クリスマスツリーのように。
「いやいやいや、七夕はただ笹に短冊を吊るすだけだろうが。こんなクリスマスツリーみたくするな」
「だって、総長が…いっぱい飾り付けた方がお願い、叶いやすくなるって…」
「んなことは無い。いくら飾ろうが吊るそうが皆平等だ」
「総長、嘘吐いた。……髭の癖に」
本音的な言葉が聞こえたが妖精さんの悪戯ということにしておく。ファンシーは時に重要な役割を果たす。覚えておこう。
その頃、
マルクトの中心 グランコクマ宮殿でも同じ事が起きていた。
「…レイン、笹に吊るすのは短冊だけです」
「だってピオへーかがいっぱい吊るした方が良いって言ってたよ?」
「あんな馬鹿殿の言う事なんて信じてはいけないとあれ程言ったじゃないでしょう」
「おいおいおい、馬鹿殿って何だよ。俺はあんな顔面真っ白のおっさんじゃねぇぞ」
こちらでも笹が色取り取りにデコレーションされていた。
クリスマスツリー並みなのだが、緑に白と赤と金、色的にはどうも門松のように見えなくもない。
「馬鹿な事をして水を被ったり、盥が落ちてきたり…我が国でもやりますか」
「タライって何ー?」
「お風呂にあるような水を入れる容器の事です」
「おちてきたら痛い?」
「高さがあれば、原料は何であれ、それなりに痛いですね」
いつの間にか話題が盥にすり替わっているのに気付いたピオニーは独り寂しげな息を吐いた。
そしてその二組は短冊を買いに外に出る。
何ともタイミング良過ぎるが、その辺は気にしないでおいてほしい。
「「あ、」」
そうなる事も、全て胸の内に仕舞っておいてほしい。
「サイラスではないですか、買い物ですか?」
「ああ、ちょっと短冊を買いに」
「サイラスさんだー!」
「サイラスはアリエッタの!」
「おや、奇遇ですね。実は私達もなんです。一緒に行きませんか?」
「ちょっと死霊使い、サイラスは僕のものだよ。そこんとこ忘れないでよね」
レインとアリエッタ、ジェイドとシンク各組、(アリエッタは一方的にだが)目から火花を放ちながら、近くの店に向かう。恐らくこの三人ならその内目からビームなんてものも出そうな気がしてならないサイラスがいた。ピオニーは相変わらずの放置である。
「おい、サイラス」
「とても36歳には見えない」
「…褒めてんのか?それとも貶してんのか?」
「どちらを取るかはウパラ氏次第だ」
「お前な…」
此処でも皇帝扱いされないのか、と落胆の念を抱くピオニーに、三方向から凄みを利かせた鋭い視線が飛んでくる。それはもうナイフのように切れ味抜群。
「ちょっと紙買って来る」
「ちょっ、サイラス、待っ!?」
一悶着起きそうな雰囲気を逸早く察知し、華麗に逃げたサイラスにピオニーは唖然。彼はその後、体に正体不明の痣が出来ていたとか。
そして、買って来た紙を短冊にし、願いを書く。
何故かやたら大勢だ。気付いたら一括りにされていた。
「サイラスは何書いたの?」
「んー?とっぷしーくれっと」
「そう言われると、見たくなるのが人間だよ」
「レインは…何を書いた、んだ…?」
「ピオへーかボロボロー」
「ああ、気にしないでいいですからね、レイン」
「うん?」
所属、意志はバラバラでも、星の海に願いを託すこの風習は変わらない。
掛ける願いは違っても、掛ける想いは同じ。
幸せよ、永遠に。
End.
10/07/06
▽後書き
アルェー、はしょり過ぎたらおかしくなった(オイ
リアタイじゃ何もしないと言いつつもやっちゃった。過去主と現在主を混合してみたかったんです。
しかも舞台はグランコクマ。ダアト組が七夕の為にこちらに来た、と言っておく(ぇ
[*前] | [次#]