たじまと夏休み


────パシン

大歓声が響き渡る中、聞こえるハズのない音は確かにわたしの鼓膜を揺らした。小さい頃何度も何度も聞いたこの乾いた音を合図に彼らの、彼の、夏は終わった。





「暑いねぇ」
「んー 暑いー」


蝉の鳴き声が響く田島の家の縁側で寝転がりながら呟いたら予想外にも隣で同じに寝転がってる田島も同意の声をあげてくれた。どっかで風鈴の音が鳴ってる。


「勉強しなくていいの?」
「そーゆーあんたはどうなの。あたしよりよっぽど勉強しなきゃヤバイんじゃない」
「オレ、たぶん大学決まったもん」
「………あ、そう」


そういえば田島には野球推薦の話がきてるらしいって浜ちゃんが言ってんのを聞いたことがある。きっと田島ん家から通えて、野球が強くて、あんまり世間を知らないわたしでも聞いたことのある大学なんだろう。いつだって田島は自分の好きなものを武器に未来を切り開いていく。何も持たないわたしにはそれが少し、羨ましかった。


「いやだなあ」


みんなわたしを置いていっちゃう。視界を彩っていたピンクはいつの間にか澄み渡った青に姿を変えて、気づかない間に高校生活最後の夏がやってきた。


「今なんつった?」
「別に」
「聞こえなかったんだって!」
「………」
「な! なに?」
「………夏休みが終わるのがイヤだって言ったの」


ミンミン、ジワジワ。あんなに鬱陶しく感じてた蝉の鳴き声も今ではなぜか愛おしく感じてしまう。


「まだ始まったばっかじゃん」
「なーに言ってんの! 夏休みなんかあっという間だよ?」
「そーなの?」
「そうだよ! あんたはいっつも野球ばっかだったから分かんないかもしれないけど、」


あ。意識的に避けてた言葉をいとも簡単に言っちゃった。ゴロン。寝返りをうって田島の方を見たらヤツも丁度こっちに向いて寝返りをうったとこだった。


「んー。 確かにさ、オレずっと野球ばっかで夏休みっぽいことしたことないんだよね」
「………部活尽くしって夏休みっぽいことじゃん」
「だーかーらー! 部活以外でだって!」
「あー…そーゆーこと」
「今からでもさ、遅くないよな!?」
「なにが?」
「夏休みっぽいこと!」
「はい?」


「オレと夏休みを過ごそう!」


田島と過ごす最後の夏が始まる。


100705