02


君がいなくても世界は規則正しく回っていく―――


ひゅうひゅうと風がスカートの裾を揺らす。どんよりとした、今にも雨が降りそうな空を見上げて思わず溜め息をつく。もうすぐで梅雨が終わる、と言ったお天気キャスターのお姉さんの笑顔を思い出してどこがだよ、と内心悪態をついた。


「おはよう、黒瀬」
「あ、おはよう」


朝練を終えた野球部の面々が教室を目指してわたしの横を走り去って行く中、その列から1人はみ出た栄口が声をかけてきた。


「みんな行っちゃったけど、いいの?」
「ゆっくり行っても間に合うでしょ」


あいつら、あーやってはしゃぎたいだけなんだよ。
笑いながら言う栄口にならってわたしも視線を前にやる。田島くんが何か叫んだのを皮切りにみんなが笑いだすのが聞こえた。


「楽しそうだね、野球部」
「うん。実際すごく楽しいよ」
「いいね。青春って感じでさ」


我ながら少し年寄り臭い言い方だと思った。わたしも本来青春真っ盛りなはずの年齢なのに。


「うちの部さ、結構レベル高いと思うんだ」
「あー、確かに。見てて分かるよ」


笑いながら返すと、栄口も「それも楽しい理由の1つだよ」と言って笑った。


「前から思ってたんだけど、黒瀬って結構野球詳しいよね」
「え?そうかな」
「うん。野球、好きなの?」
「………身近にすごい野球好きな人がいたから、」


そこまで言ったところで目の前にある校舎から予鈴が鳴り響くのが聞こえた。「ゆっくりし過ぎたね」と少し足早に走って行く栄口の背中を少し慌てて追いかける。


空を見上げると先ほどのどんよりした雲の間から、朝日が覗いていた。どうやら、お天気キャスターのお姉さんの言葉に嘘はなかったらしい。

もうすぐ、夏がくる。


080917