05

「え?おねーさんも白石に用事?」
「えっと…あたしの部屋、白石さんの隣なんです。」
「え?!そうなん?自分財前の友達なんやろ?あいつ聞いたら驚くで」
「光くんは知ってます。なんなら白石さんもわたしが光くんと友達って知ってます」
「てことはなんなん!知らんの俺だけかいな」

仲間はずれやー!、と叫んでいる忍足さんを見て、そもそも忍足さんとわたしが顔を合わせたのも今日が初めてで、しかもその出会いがバイト先のお客と店員という関係性だったことを考えたら知らされていなくても当然だと思った。

「忍足さんは白石さん待ちですか?」
「そ!実家から大量にソーメンが送られてきてな、流しそうめんパーティーしよ言うて来たんやけどまだ白石帰ってきてへんねん」

流しそうめんパーティー。聞き慣れない言葉に戸惑うが忍足さんは気にすることなく話を続けている。鍋パーティー、たこ焼きパーティーでは飽き足らずそうめんですらパーティーの道具にしてしまうのか。大阪人おそるべし。いや、この場合大学生がそういうものなのか、この人たちが特別なのか。

「謙也と…名字さん?」

わたしの背後から落ち着いた声が聞こえて振り返る。と、スーパーの袋を持った白石さんと光くんが立っていた。

「待ったで白石!おっそいねん!」
「謙也が早すぎるんやわ。オートロックどないして入ってん」
「そんなもんここの住人の後ろをしゃしゃっとやな…」
「謙也さん、不法侵入っすわ」
「正当な理由があるから大丈夫や」
「お巡りさん呼んでこな。タスケテーオマワリさーん」
「呼んだとしても無罪放免やわ」
「いや、騒音罪とか余罪がたくさんあるんで」
「ないわ、アホ!」

言い合いを始めた(と、いうより光くんが一方的に忍足さんをなじっている)2人には慣れているのか気にする様子もなく、白石さんは家の鍵を開けている。

「名字さんは今帰りやったん?」
「はい、バイト終わりで」
「晩飯食うた?」
「いえ、これからです」
「ほんなら、一緒に流しそうめんせえへん?」
「いいんですか?」
「謙也が持ってきた量見る限り3人じゃ食われへん量やし、むしろ助かるわ」

な、ええやろ?ときいた白石さんの声は背後の2人には届いていないようで、返事は返ってこなかった。

「あの…」
「構わん構わん。あいつらいつものことやから」

近所迷惑になるからそろそろやめなさい、と2人の背中を押しながら白石さんは部屋に入って行った。まさに『白石部長』だ。あまり自分を語らない光くんでさえ話さざるを得なかった仰天エピソードの数々を輩出した部員たちをまとめていた白石さんの姿が目に浮かんだ。

「名字さん?入らんの?」

白石さんが振り返ってわたしに問う。きょとんとした顔も整っているなあ。そんなことを思いながら、手に持っていた春雨ヌードルをコンビニ袋ごと乱暴にカバンに突っ込んでわたしは白石さんの部屋に入った。


170511