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1月16日(土)
坂田は寝起きが悪い。自分に対して不信感は抱いていないものの、単純に女が戦争に参加することを快く思っていないらしい。女性蔑視である。


「坂田さん坂田さん」

聞き慣れない、けれど心地のいいソプラノの声が降って来た。あれ、ここどこだっけ。鮮明にならない意識の中、必死に声の主を探そうとする。と、ふわりと体が宙に浮く感覚がした。え?これなに?本当になにが起こってんの?状況を理解する前に訪れた背中の鈍い痛みで目が覚めた。

「早く起きないと実力行使しちゃいますよ」
「・・・いや、もうしちゃってるからね」

にっこりと微笑む女の手にはさっきまでオレが寝ていた布団が握られていた。

「あのさ、もうちょっと優しく起こしてくんない?」
「何度呼んでも起きない坂田さんが悪いんですよ」
「案外バイオレンスなのね、キミ」
「そう言う坂田さんは見た目通りちゃらんぽらんみたいですね」

あれ、なんでほとんど初対面の人に貶されてんのオレ。じとりと非難を込めた視線をやっても女はそれに気付いてるのかそうでないのか、とにかく全く悪びれることなく笑いながら襖を開けた。

「みなさんもう食堂に集まってましたよ。坂田さんも早く来てくださいね」

ぺたぺたと廊下を裸足で歩く音が遠ざかって行った。その可愛らしい足音も、その心地よい声も、女の全てがこの場所にまるで似つかわしくなかった。例えるなら、瓜の中になすびが飛び込んで来た感じ。実際オレも彼女がここにいることに違和感を覚えている。

「…なんだってヅラはあんなもん拾ってきやがった」

ぼそりと出た言葉は誰にも掬われることなく、朝の日差しに溶けていった。


090706