プロローグ

「ちょっと銀さん。そろそろ溜まったアレ、どうにかしてくださいよ」

塵払いとほっかむりがよく似合ったメガネが指差した先には山積みになったジャンプが絶妙なバランスで塔を築いていた。いや、どうにかしろって言われても。オレにどうにか出来たらとっくにどうにかしてるわ。

「勝手に捨てちゃいますよ」
「おーそうしてくれ。あ、左のはまだ新しいから右の方だけな」

手元にある最新号に視線を戻して言うと、後ろから深いため息が聞こえた。正月早々辛気臭いことこの上ない。

「だいたい、正月明けてから掃除してること自体がおかしいんですよ」

………お前は口うるさい姑か。嫌味ともとれる(実際、そうなんだろうけど)台詞に心の中で毒づいたのとほぼ同時に、バラバラと何かが床を打ち付ける音がした。どうやら、絶妙なバランスを保っていたジャンプの塔もついに崩壊の時を迎えたらしい。

「あれ?」
「今度はなんだー?」
「ちょっと銀さん、なんかジャンプの間に挟まってましたよ」

メガネの奥に見える目を細めながら新八が手にしていたものは所々手垢が付いた、小さな手帳だった。

「なんですか、これ」
「? オレも知んねーよ」
「わたしにも見せるアル」

破れないように慎重に手帳のページをめくる新八に、ほっかむりを被った神楽が興味津々に近付いて行った。読みかけのジャンプを机の上に乱暴に置いて、オレもそれに倣う。

「…日記、みたいですね」
「………あー」
「心当たりあるんですか」
「銀ちゃんの中2日記アル。きっとトンデモナイ黒歴史が」
「んなもんねーよ。」

『―――銀ちゃんへ』
最後の1ページは俺の名前で始まっていた。小さな字の列をゆっくりとなぞっていく。ところどころに『桂さん』だの『辰馬』だの『晋助』だの、懐かしい面々の名前が伺えた。毎日この字を拝んでいたあの頃は、戦争が終わってもヤツらはずっと近くにいるもんだと思っていたけれど、気付けば、隣にはヤツらじゃなくて、こいつらがいるようになっていた。

「………。」
「………銀さん?」
「少し、昔話をしようか」
「はい?」

そうか、もうあの頃の日常は昔話になってしまうのか。


090111