「げ」

「よぉ」


思いっきり顔をしかめたというのに、前にいる男はなんの表情の変化も見せず右手を挙げた。こんな時に一番やっかいなヤツと出会ってしまうなんて、コンビニからの帰路にこの道を選んだ1分前の自分を恨む。


「わたしちょっと急いでるんで」

「おいおい何言っちゃってんの。急いでるヤツは歩きながらそんなもん食わねぇよ」


銀さんが指差した先には今まさにわたしがかぶりつこうとして包みを開いたほかほかの肉まんの姿。目敏いヤツめ。やっぱり見逃すなんてことはなかったか。


「肉まん食べてるから忙しいの」

「そうかそうか、銀さんが食べるの手伝ってやるよ」


そう言うやいなや、持っていた肉マン目掛けてのびてきた銀さんの手をすんでのところで交わしたわたしの反射神経グッジョブ。しかし、この男、本当に油断ならない。


「いやいやいや!銀さんの手をわずらわせるほどでは」

「遠慮すんなって。」


肉まんをアメフトのボールみたいに大事に胸に抱え込んで、来た道を戻ろうとクルリと銀さんに背中を見せた瞬間、ガシッと首根っこを掴まれた。普段無気力なクセにこういう時だけやたら強くなる圧力にわたしはいよいよ観念する。


「……半分こだったらいいですよ」

「そ?悪ィな」


全くそうは思っていない顔を睨みながら半月になってしまったほかほかの肉まんを手渡すと、大きな右手で頭をガシガシと撫でくりまわされた。


「ちょ、なにすんですか!」

「聞き分けの良い子は銀さん好きだよ」

「……そりゃどうも。」














「今度はあんまんでヨロシク」

「………。」

081229