「あほ。なんべん言うたら分かんねん。」
スパンと本場吉本もびっくりな小気味良い音をたてて、頭を叩かれた。あたしの背後に立つ南の右手には丸まった教科書が握られている。
「ちょっと南さん。これ以上あほになったらどないすんの」
「それ以上あほになれへんから心配すんな」
斜め上から小馬鹿にしたようにわたしを見下ろすこいつが憎い。ちょっと頭良くてちょっとスポーツ出来てちょっと背が高くてちょっとカッコいいからって調子のんなよ。モテへんくせに。
そう思いながら右手に握るシャーペンを紙の上に走らせていると再びスパンという音とともに頭を叩かれた。
「あほ。また間違っとる」
「………。」
ぱかぱか乙女の頭を叩く非常識男に文句の一つでも言ってやろうかと思ったが、勉強を教えてくれと頼んだのは他でもない自分だということを思い出してなんとか思いとどまる。
もう一度その問題を解き直し、正誤を問おうと南の顔を仰いだとき、彼は窓の外を眺めていた。その視線の先には、体育館。
「南、」
「ん?ああ、解けたんか」
「いったん休憩しよ」
「何言うてんねん。まだ30分もやっとらんやないか」
時計をチラリと見て少し呆れ顔になる南を無視して、窓の鍵に手をかける。そのままガラリと窓を開けると肌寒い空気が一気に教室内に吸い込まれた。乾燥した肌がちりちりと痛む。
「バスケ部、ウィンターカップに向けて今日も練習してんの?」
「……そうなんちゃう?」
「そっか…。」
このクソ寒い中、あの中だけは夏と変わらないんだろう。ただ、そこに南はいない。それがあたしにはすごく寂しい。
「なぁ、南…」
「今度はなんや」
あとで岸本を茶化しに行こう。
笑いながら言ったら再びスパンと頭を叩かれた。
「あほなこと言うとらんと、お前は はよ続き解け」
「…つれないなぁ。」
口を尖らせながらすっかり冷たくなってしまったシャーペンを握ると、「そのページ終わったら体育館行こか」なんて南が笑いながら言うから無性に嬉しくなった。
あの夏を望むのは
きっとわたしだけじゃない
081223
関西弁が書きたかっただけ