オレは最初から反対だったんだ、あんな胡散臭い女。


いつの日だったか、屯所を一人の女が訪ねて来た。薄汚いナリをした、けれどどこか上品そうな雰囲気を纏った女。
聞けば金に困っているらしい。食事でも洗濯でも、なんでもする代わりにここに置いてくれ、と本当に切羽詰まった様子で言うもんだから人の良い近藤さんは二つ返事で了承してしまった。






「来たか。」
「………分かっていたのですか。」

上に被さるように座る女の手の中でギラリと月の光を反射して銀色に輝くそれはオレの首に沿うようにぴたりと張り付いている。ただでさえ、霜が降りるこの季節。冷たくてかなわない。

「狙いはなんだ。真選組か?」
「そんな大層なものじゃございません。」

思っていたものとは違う答えが返ってきて、少しだけ面食らう。じゃあ、何が狙いだ。攘夷派の誰かの差し金か。問いただしても、女は首を横に振るだけで何も答えない。

「答えられないんなら生かしとく謂れはねぇ」

女の右手をはたき、足を払って刀を奪う。急なことに咄嗟に反応し兼ねた女の体が先程まで自分がいた場所に崩れた。形勢逆転だな、と頭上から吐き捨てて自分がされていたのと同様に女の首に刀を突き付ける。ギラリ。刀に反射した月光に照らされた女の顔は笑っていた。

「…なにがおかしい」
「先程の問いにお答えしましょうか」

自分の眉間に皺が寄るのが分かった。今更、命乞いでもしようってのか。気に入らねえ。そう思った瞬間、女は刀を握るオレの手を掴み自身の腹に突き立てた。全く予想していなかった出来事にオレはただ赤に染められていく女を見つめることしか出来ない。

「これであなたの特別になれたのかしら」


わたしを殺めたことを、どうか忘れないでくださいね


そう言い残して女は息を引き取った。





今まで何千何百という死を見てきた。なのに、何故。最期に見た彼女の笑顔が脳裏に焼き付いて離れない。


―――だからオレは最初から反対だったんだ、あんな胡散臭い女。

081220